「最期の顔は安らかで...」
そんな表現がよくなされますよね。
本当にそうなのか?
逆に"苦しい表情"で亡くなることはあるのか?
今回はそんな"死亡時の表情"について書いていきたいと思います。
結論から先に言うと...
基本的に『誰しも死後の表情は安らかとなる』
記事タイトルにもあるように、これが結論です。
詳しくみてきましょう。
表情というのは顔面の"筋肉"によって創られます。
死後は全ての"筋肉"において死後硬直が起きます。(参考記事:「死後硬直」)
この現象は"表情筋"も例外ではありません。
死後硬直の過程については、下記の通りです。
この死亡直後の"筋弛緩"が重要になってきます。
亡くなった後は、脳からの信号が途絶え、筋緊張が無くなるために"筋弛緩"が起きます。
その後、表情筋にも死後硬直が始まり、場合によっては若干しかめっ面な表情となることもあります。
つまり基本的にはどの状態であっても「死後の"筋弛緩"によって表情はゼロポジションに戻る」のです。
もちろん死戦期には苦悶の表情をすることもあるでしょうが、死後の表情は"筋弛緩"によってリラックスしたものとなるのですね。
従って、世間一般に言われる"安らかな最期の表情"というのはあながち間違っていないわけです。
では逆に「苦悶の表情で亡くなることはないのか?」という質問はどうでしょうか。
この質問に対しては「ほぼない」というのが答えだと私は思います。
巷では「極度の恐怖や怯えの中で亡くなった場合は死後もその表情が残る」という噂があったり、
時に"強直性硬直"の類いで言及されますが、法医学者の間では眉唾物です。(参考記事:「強直性硬直」)
現に私自身も苦悶の表情で亡くなっていたご遺体に出会った経験はおそらくありません。(私の主観ですが)
ただし、何事にも例外はあります。
前述のように死後の筋弛緩で表情がゼロポジションとなるのは「物理的に何も力を受けていない状態」においての話です。
この段階で、外力によって物理的に表情を変わってしまっている場合は、その状態で死後硬直が始まると緩解するまでその表情が保持されます。
具体例を挙げてみますと、首を吊った場合が挙げられます。
例えば縊死の場合などでは、吊り紐によって舌が押し出されます。
ですので、そのままの状態で硬直まで進むと、ご遺体を下ろした後でも舌が出たままとなります。
この状態は見る人によっては"苦悶の表情"と言えるのかも知れませんよね。
このように弛緩〜硬直までの間に物理的な力が加わり続けると、前述のような"安らかな"表情ではないこともあり得ます。
しかし、そのようなケースは極々稀であり、特に病死などではほぼ100%で安らかな表情で亡くなっていると言えるでしょう。
以上、身も蓋もない話になってしまいまいましたが、今回は"死後の表情"について書いてきました。
『(どのような状態であっても)死後の表情はリセットされる』というのは、遺族にとってはある意味で"救い"になることもあるのかも知れませんね。