89A8
異状死体として医師が届け出る必要があるのはどれか.
a 初診患者が救急外来到着後30分で明らかな心筋梗塞で死亡した.
b 最後の診察から18時間後に自宅で癌性腹膜炎で死亡した.
c 脳出血の診断で病理解剖中に頭蓋骨骨折を発見した.
d 高血圧で治療中の患者が入浴中に溺水状態で発見され,脳卒中と診断したが,患者は間もなく死亡した.
e 肺結核で入院中の患者が大量喀血し,窒息死亡した.
正答は【c】です。
[a] 誤り(=届け出の必要はない)。初診患者ではありますが、30分間診療行為を行った上で"(明らかな)心筋梗塞"という病死因を診断できていますので、届け出の必要は必ずしもないと考えられます。
[b] 誤り(=届け出の必要はない)。診療継続中に癌性腹膜炎(=病死)で亡くなっています。「異状を認めた」旨の記載はなく、(国試的に)「病死≒異状なし」と考えれば届け出は必要ないと回答することになります。
[c] 正しい(=届け出の必要がある)。「脳卒中の診断の上、病理解剖を行うと思わぬ頭蓋骨骨折があった」ということになると思います。素直に考えると、死因である脳卒中の原因が"外因性"である可能性が出てきます。基本的に「外因死は異状あり」と考えられるので、所轄の警察署に届け出る必要があると思われます。
[d] 誤り(=届け出の必要はない)。「脳卒中を起因とした溺水と診断した患者が亡くなった」というケースです。溺水の原因(=原死因)は"脳卒中"であり病死のため、[b]と同様に、(国試的に)「病死≒異状なし」と考えれば届け出は必要ないと回答することになります。
[e] 誤り(=届け出の必要はない)。「診療継続中の結核を起因とした窒息」ということなので、[d]と同様に、"病死"と判断されます。(国試的に)「病死≒異状なし」と考えれば届け出は必要ないとの回答になります。
「異状死体届出が必要か否か?」問題です。
医師法第21条に関連した問題ですね。(類似問題:85A98)
かつての死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルには以下のようなフローチャートが掲載されていました。
これに従うと、届け出の必要がないケースは下記の2通りが考えられます。
① 診療継続中の患者が、その診療していた疾病に関連して死亡した場合には"死亡診断書"を発行でき、検案の必要はなく、所轄警察署への届け出の必要もない。
② (①以外のケースにおいて) 検案の上、異状があると認められなければ"死体検案書"を発行でき、所轄警察署への届け出の必要はない。
従って、「死亡診断書を作成するケース」と「検案をして異状がないケース」
この2パターンでは異状死体届出の必要はないと言えます。
これを踏まえた上で問題を振り返ると、「病死≒異状なし」と考えざるを得ない選択肢がある点が少し不適切であると私は感じます。
前述のように、本来は単純に「病死≒異状なし」となるのではなく、
「診療継続中、かつその診療していた疾病に関連した病死≒異状なし」となります。
逆に「病死であっても、診療継続中でなかったり、診療継続中でもその診療していた疾病に関連した病死でなかった場合は、届け出る必要があるケースもある」ということなのです。
ですので、[b]にある"最後の診察"が死因となった腹膜炎の元となった"癌"であればOKですが、そうでない疾患の診察であったのなら、検案をして異状がないことを確認しなければなりません。
一方で、[d]や[e]では生前にその死因の原因となる病気(→脳卒中や結核)を診察しているのでOKだと思われます。
...と言いたいところなのですが、近年のマニュアルで使い分けに関する記載が下記のように変わりました。
「『死亡診断書』であるか『死体検案書』であるかを問わず、異状を認める場合には、所轄警察署に届け出てください。」
個人的に「死亡診断書を作成するケースでは検案の必要がないため、そもそも届け出の必要がない」と今まで思っていたのですが、厚生労働省は「そうではないよ」と判断しているようです。。
「とにかく異状があれば所轄警察署に届け出なさい」
結局これが現在の厚生労働省の言わんとするところなのでしょう。
ここまでいろいろ書いて来ましたが、厳密に正しいかどうか?は別として、ともかく国試的には、
「病死≒異状なし」
「非病死(=外因死)≒異状あり」
と考えれば回答ばできそうですね。(もちろん他の選択肢もきちんと考慮した上で!)