第98回医師国家試験 B問題 問2 [98B2]

98B2
64歳の男性.末期癌で在宅ケアを受けている.担当医は週に2回午後に往診している.最後に担当医が往診した翌日の午前中に訪問看護師から死亡を看取ったとの連絡があった.担当医は直ちに往診し,診療中の末期癌で死亡したと判断した.
担当医の取るべき処置で正しいのはどれか.

a 警察へ連絡し,監察医を依頼する.
b 警察へ連絡し,死体検案書を交付する.
c 警察へは連絡せず,死体検案書を交付する.
d 警察へは連絡せず,死亡診断書を交付する.
e 死亡を看取った訪問看護師に死亡診断書を書かせる.




正答は【d】です。


[a] 誤り。問題文中には担当医が「異状あり」と判断した旨が記載されておらず、客観的にも明らかに異状であると読み取れるような記載がないため、あえて警察へ連絡する必要はないと考えられます。実務的な話にはなりますが、監察医への依頼は担当医自ら行うのではなく、主に警察から行うようですので、依頼する流れとなっても担当医が自ら監察医に依頼する必要はないようです。

[b] 誤り。[a]同様、警察に届け出る義務があるのは「検案をして異状死体である」と判断した場合なので、その旨の記載がないことから、警察への連絡は不要と考えられます。また担当医がこれまでずっと診続けていた末期癌で当該患者は亡くなっているため、"死体検案書"ではなく"死亡診断書"の交付でよいと思われます。

[c] 誤り。警察への連絡は不要として合っていますが、[b]で書いたように、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」に該当しますので、"死亡診断書"の交付が適切かと思います。

[d] 正しい。[c]の解説の通り、警察への異状死体の届出は不要で、(担当医が)死亡診断書を交付するという対応が最も正しいと考えられます。

[e] 誤り。死亡診断書を作成できるのは"医師もしくは歯科医師"だけですので、看護師が作成してしまうと医師法違反となります。ただし昨今は「ICTを利用した死亡診断」として、一定の要件を満たす場合は看護師による"死亡確認"や"死亡診断書の代筆"が認められています。



臨床問題です。

ずっと往診していた患者さんを看取った際の対応が聞かれています。

これでもか!という位、死亡診断書交付におけるオーソドックスなストーリーですので、そこまで悩まなかった受験生も多いですかね。

これで「警察に届出が必要」だったり「死体検案書の交付が適切」だったら、きっと世の中の自宅でのお看取りはできないことでしょう。


言及するとしたら、選択肢[e]です。

出題当時(2004年)は、まだ「情報通信機器(ICT)による看護師の死亡診断書作成の補助」が認められていませんでした。

ところが、患者が死亡した際、これまで診療していた医師が遠方にいるなどで、死亡後改めて診察を行うことが難しく、結局患者が終末期に住み慣れた場所を離れて医療施設に入院したり、死亡後に遺体を長時間保存・長距離搬送する必要があるという問題がありました。

そういった問題点から、2017年に「ICTを利用した死亡診断等に関するガイドライン」が発出されました。

そして、一定の要件の元、

・法医学に関する一定の教育を受けた看護師が
・ICTを利用して
・"死亡確認"や"死亡診断書の代筆"といった死亡診断書作成の補助を行える

ということになりました。


従って、もう少し選択肢の文章を弄れば、今後は[e]'も正答になり得ると言えます。

ただそれが出題されるならむしろ看護師国家試験になりますかね。



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