今回はDNA分野で頻繁に用いられる"ポリメラーゼ連鎖反応"(通称PCR)という手法について取り上げたいと思います。
PCR = Polymerase Chain Reaction
ということなので、この反応は(DNA)"ポリメラーゼ"という酵素が重要な鍵となっています。
DNA(デオキシリボ核酸)は細胞の核内に存在します。
そして細胞が分裂する際には、その持っているDNAも複製しなければなりませんよね。
またDNAが壊れてしまった際、元に戻す必要があります。
こういった場合に活躍するのがDNAポリメラーゼという酵素です。
2本DNA鎖の一方を鋳型として、ポリメラーゼがもう一方のDNA鎖を合成していきます。
このポリメラーゼのDNA合成機能を利用し、特定のDNA配列を増幅させていくことを目的としてPCRは行われます。
ただDNAポリメラーゼも、何でもかんでも合成していくわけではありません。
・鋳型DNAが1本鎖となっている
・目印となる"プライマー"が鋳型DNAにくっついている
・ポリメラーゼが働きやすい温度になっている
究極までそぎ落とすと要点はこの2点です。
これを踏まえた上で、PCRの流れとしては、
・鋳型DNA鎖を2本鎖→1本鎖にする
・プライマーを1本鎖DNAにくっつける
・DNAポリメラーゼが合成を開始する
・合成されたDNAを2本鎖→1本鎖にする
...以後繰り返し
といった感じですね。
詳しくみていきましょう。
DNAポリメラーゼが合成を開始するには、目印となるプライマーというDNAが必要になります。
このプライマーは、増やしたいDNA配列を挟み撃ちにするように、2種類が人工的に作成する必要があります。
このプライマーは鋳型DNAにくっついていなければならないのですが、鋳型DNAが2本鎖のままだとこのプライマーはくっついてくれません。
ですので、まず高熱(約94℃)を加えることで2本鎖の鋳型DNAを1本鎖へバラバラにします。
その後、約60℃まで温度を下げることで、小さなプライマーだけ鋳型DNAにくっつきます。(鋳型DNAが元の2本鎖に戻ることはありません)
ここからさらに72℃へ温度を上げると、DNAポリメラーゼがプライマーを見つけて鋳型DNAに対応するDNAを合成していきます。
合成されたDNAは2本鎖なので、また94℃に温度を上げて1本鎖にします。
そして、以後は合成されたDNAを鋳型としてPCRが繰り返されていきます。
これを繰り返すことで2倍4倍8倍...と挟んだ部分のDNAが増えていくのです。
ちなみにこのDNAポリメラーゼは酵素なので、これもタンパク質で出来ているわけです。
タンパク質は熱によって変性してしまいますよね。(ex.ゆで卵)
当然DNAポリメラーゼも94℃の加熱の際に通常なら変性してしまうのです。
これを防ぐために『"耐熱性の"DNAポリメラーゼを使用する』というのが実はこの手法のミソなんですよねー。
この耐熱性DNAポリメラーゼを用いたPCR法を開発したキャリーマリス博士は、その功績を称えられ1993年にノーベル化学賞を受賞されています。
そして、DNA増幅が無事に終わっても、その増幅したDNAをどうするのか?が結局大事になってきます。
配列を読み取って、"個人特定"に使用したり、"ウイルスの存在を証明"したり...。
PCRはあくまで"手段"であって"目的"ではないので、そこは勘違いしてはいけませんかね。
ということで、今回はPCR法についてみてきました。
昨今ウイルスの検出する"PCR検査"として有名になりましたが、あくまで「PCR法を使った検査」という意味だけであって、「ウイルスを検出するため(だけ)の手法」ではないのです。
法医学の分野でも大いに活躍している素晴らしい技術であることを知ってもらえれば幸いです。