101E9
78歳の女性.咳,食欲低下および体重減少を主訴に夫に連れられて来院した.
現病歴:2,3ヵ月前から軽度の咳が出現した.食欲が徐々に低下し,体重も減少した.易疲労感があり,全身倦怠感を認めた.この1ヵ月は家で横になっていることが多く,食事の用意や家事は高齢の夫がしていた.家族が病院に行くように何度も勧めたが,家から離れたくないと拒んでいた.今のままでは夫のほうが倒れてしまうと説得されて,ようやく近くの診療所を受診した.
既往歴・家族歴:特記すべきことはない.
生活歴:夫と二人暮らし.息子と娘は遠方に暮らしている.
現症:意識は清明.身長153cm,体重32kg.体温37.3℃.呼吸数22/分.脈拍96/分,整.血圧116/60mmHg.眼瞼結膜に貧血を認める.皮膚はやや乾燥している.心雑音はない.右胸部に呼吸音の減弱を認める.腹部には異常を認めない.下腿に浮腫はない.
検査所見:血液所見:赤血球280万,Hb 7.8g/dL,白血球7,200.胸部X線写真で右上葉に腫瘤影と右側胸水貯留を認める.左肺に転移巣を疑わせる結節性の陰影が散在している.
経過:進行性の肺癌が強く疑われた.家族の意向もあり,病院の呼吸器科を紹介受診して入院精査が行われた.確定診断は肺癌で,肺内転移と骨転移とが認められた.家で穏やかに過ごしたいという本人の強い希望で患者は自宅に戻り,在宅医療が行われることになった.
診療所医師として週3回の訪問診療を行い,今朝もその準備をしていたところ家族から電話があった.午前2時ころに息を引き取ったとのことであった.
訪問して死亡を確認後,手続きとして次に求められるのはどれか.
a 24時間以内に管轄保健所に届け出る.
b 24時間以内に所轄警察署に届け出る.
c 警察の立会いのもとで検視を行う.
d 遺族に司法解剖の承諾を得る.
e 死亡診断書を発行する.
正答は【e】です。
[a][b] 誤り。診療所医師は自身で死後診察(確認)を行い、その上で問題文から「異状あり」と判断すべき所見は読み取れません。従って、警察へ届け出る必要はないと思われます。異状死体の届け出先は"所轄警察署"であり、保健所ではありません。
[c] 誤り。そもそもまず"検視"を行う主体は警察であり、医師ではありません。医師が行うのは"検案"です。その上で、「検案をするかどうか?」ですが、[e]で後述するように、当該患者さんは診療所医師が診療している疾患でお亡くなりになっていることが明らかのようですので、あえて検案する必要はないと考えられます。
[d] 誤り。そもそも司法解剖に遺族の承諾は不要です。その上で、司法解剖となるには、まず診療所医師が検案をして「異状あり」と判断し、警察に異状死体の届出を行う必要があります。しかし、前述のように、検案を行う必要はないと考えられ「異状あり」と判断した旨の記載もないため、司法解剖の流れには乗らないと思われます。
[e] 正しい。本事例では、生前から診療所医師によって当該患者さんの肺癌に対する診療が行われています。そして最終的にこの肺癌によってお亡くなりになっています。以上より、死亡診断書の発行で問題ありません。
看取り医療における臨床問題です。
本来は3連問になっており、今回の問題はその3問目です。
その間に徐々に衰弱していく臨床経過が書かれていますが、本問題を解く上で直接関係がないので割愛しています。
選択肢中の語句に明らかな誤り(保健所や検視など)があるので、割とさっくりと解けるかも知れませんね。
結局のところ、要は、
"死亡診断書"の流れにいくのか?
"死体検案書"の流れにいくのか?
の二択ですね。
「在宅医による看取り医療」のエピソードがありありと描かれていますね。
ですので、「"診断書コース"なんだろうな」というのが雰囲気で分かると思います。
ちなみに、本事例がもし最終診察から24時間以内であり(問題文からは読み取れないですが)、
診察せずとも「肺癌で死亡した」と判定できる場合なら、死後診察を行うことなく死亡診断書を発行することも可能です。
ただ本事例では死後にきちんと診察(確認)を行っており、その上で死亡診断書を作成している点も素晴らしいですね。