銃器・射創2 (接射・近射・遠射の特徴)

引き続き銃器損傷について書いていきます。

もう少しだけ用語が出てきますが、各論チックな内容も出てきますのでがんばってください...。



前回射創の種類にはいろいろな名前が付いているのをご紹介しました。

それに加え、ライフル銃・ピストル銃では、弾丸が撃たれた距離によってその射撃・発砲の呼び名が変わります。

①接射:皮膚に接着した射撃。 ※目安として0〜10cm
②近射:接射を除く、近距離からの射撃。 ※目安として10〜60cm
③遠射:遠距離からの射撃。 ※目安として60cm〜∞

以上3つです。

ただしかなり簡略化したこの定義は厳密に言えば間違っています。

3者の特徴に触れつつその意味を詳しくみて修正していきましょう。



①接射:『銃口が皮膚にほぼ接着した状態からの射撃。』

この定義については概ね問題ありません。

基本的に接着して撃つことです。

射撃距離の目安として『~10cmまで』と書きましたが、これはあくまで目安であり、10cm以内の射撃だからすべて接射の所見を認めるということではありません。

爆発ガスよって射入口は星状に破裂しており、火薬の粉末や煤などが皮下に入り込むのが典型例で、その所見は接射と判断する上で重要です。

後述の近射の場合に比べると、接射では爆発ガスや煤暈・煤煙は接着した皮膚に覆われてしまいますので、外見上はわずかに焼輪を認めるに過ぎないことも多々あります。

また完全に接着させて射撃した場合は、射撃時の反動と皮膚の盛り上がりによって、銃口の形が押し付けられてその型が残る"パンチ像・印象痕"を認めることがあります。


②近射:『煤暈、焼輪、火薬粒を認める距離からの射撃。』

ここでも10~60cmという目安は書きましたが、「10~60cmの範囲から打たれたものが近射というわけではない」ことが重要です。

"近射"と"遠射"という名称は決して規定の距離で分類されたものではないということです。

説明になっていませんが『近射で認められるとされる所見がある場合』を"近射"と呼んでいるに過ぎません。


gunshot.jpg

煤暈:火薬の燃焼に伴う煤の付着
焼輪:爆発熱による輪状の皮膚の火傷
火薬粒・火薬輪:燃えずに残った火薬の粒、またそれによる輪状の皮膚所見
挫滅輪:弾丸が皮膚を貫くまで引き伸ばし、貫く際に擦れる際に出来る皮膚所見(約2~4mm幅)
汚染輪:弾丸の通過に伴って付着する油や微細金属などによる輪状の汚れ (約1~2mm幅)

用語の解説は上の通りです。


近射までの距離では、発射に伴う火薬とその燃焼の影響が所見となって現れるということです。

接射と比べてみると、接射では射入口が燃焼ガスによって破裂状になりますが、近射ではある程度距離ができますので燃焼ガスの入り込みの影響はなくなり、射入口は単純な円形になるとされます。


③遠射:『挫滅輪、汚染輪のみを認める距離からの発砲。接射・近射以外の射撃。』

こちらでは、前述の挫滅輪と汚染輪のみを認めるケースを指します。

近射では火薬粒が射入口付近に認められるのに対して、遠射ではさらに距離が伸びるためそれらがないというのが大きな特徴です。

その結果、弾丸の直接的な作用による"挫滅輪"と"汚染輪"だけが残るというわけですね。


以上が、ライフル銃・ピストル銃の射撃距離による分類でした。

実務ではこれらの所見からざっくりと射撃距離を推定します。

厳密に調べるには、実際の銃器を撃ち、そこから射撃距離を測る必要があります。

これは銃器を扱うことになりますし、法医学教室ではなく科警研や科捜研のお仕事になってきます。(参考記事:法科学とは何か?)



さて、それでは散弾銃ではどうでしょうか。

散弾銃は無数の小さな弾丸が放射状に発射されることが利用されます。(※スラッグ弾は除く)

具体的には、ざっくりと下記の通りです。


1~2m以内からの発砲:個々の弾丸がまだ散乱せずのでまとまった大きなひとつの創口が出来る。

2~10m:ある程度距離が出てくるため、真ん中に大きなひとつ創口が出来、その周囲に小さな個々の散弾による創口が取り囲むように出来る。

10m以上:個々の弾丸が完全に散開し、パラパラと小さな創口が均一に散らばる。



『どの距離から撃たれたのか?』というのは捜査上・裁判上とても重要な関心です。

なので、この鑑別も重大です。

これが医学知識なのか?というのはありますが(厳密には"法科学"の領域)、我々もこういった知識を持ってサポートしています。


また長くなってしまいましたが、次の記事をこの"銃器・射創"の最終回としたいと思います。