101H22
2ヵ月の乳児.午前7時40分に搬入された.心肺停止状態で,当直医が直ちに蘇生を試みたが午前8時15分に死亡が確認された.患児は昨日の午後11時に自宅で乳児用のマットを敷いて仰向けに寝かせられていた.今朝7時に母親が見に行くと,マット上でうつぶせになっており呼吸が止まっていたので直ちに119番通報した.救急隊が到着時に脈拍は触知せず,呼吸は停止していた.これまでの発育は順調で,外表では奇形や外傷を認めない.
当直医がまず行うべきことはどれか.
a 病理解剖を勧める.
b 所轄警察署に届け出る.
c 児童相談所に通告する.
d 死亡診断書を発行する.
e 死体検案書を発行する.
正答は【b】です。
[a] 誤り。死因を含め詳しい事情が分からず、まず「異状あり」と判断した上で、警察への異状死体届けをすべき事例と思われます。病理解剖はあくまでその後の話です。
[b] 正しい。[a]の解説の通り、死因は不明で死亡時の状況もはっきりせず、「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体」とは言えないため、「異状あり」として、まずは所轄警察に異状死体の届出を行うべきだと考えられます。
[c] 誤り。臨床においてもし虐待が疑われるようなケースであれば、確かに「児童相談所に届け出る」という法律はあります。→ 児童虐待の防止等に関する法律 第6条「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない。」 ですが、本事例はそもそも「虐待が疑われるケースであるか?」というのは微妙です。万が一「虐待を疑うんだ」と思ったとしても、死亡例の場合は「虐待が疑われる → 異状あり」ということですから、何よりもまず警察に届け出ることが優先されます。
[d] 誤り。死因が分からない以上、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」には該当しません。従って、死亡診断書を発行するのは不適切です。
[e] 誤り。[d]を読んだ後に考えると「死亡診断書でなければ、死体検案書か?」と思いたくなりますが、それもまず警察へ異状死体の届出を行ってからです。その上で、警察が非犯罪死と判断した場合に、当直医による死体検案書の発行が行われる可能性があります。
乳児の突然死症例を診た際の対応について問われています。
"乳児・急死・外表に奇形や外傷なし・うつぶせ"などのキーワードから、SIDSや窒息死を想像した人も多いでしょうね。
"見た目で"「外傷はない」ものの、場合によったら「虐待かも?」と考えた受験生もいるかも知れません。
そうなってくると「[c]なのだろうか...?」と思ってしまいますよね。
前述の"児童虐待の防止等に関する法律"の第5条にはこうあります。
学校、児童福祉施設、病院、都道府県警察、婦人相談所、教育委員会、配偶者暴力相談支援センターその他児童の福祉に業務上関係のある団体及び学校の教職員、児童福祉施設の職員、医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、弁護士、警察官、婦人相談員その他児童の福祉に職務上関係のある者は、児童虐待を発見しやすい立場にあることを自覚し、児童虐待の早期発見に努めなければならない。
このように、医師等は児童虐待の早期発見に努めるよう法的に義務付けられています。
その上で、選択肢[c]の解説の通り、虐待が疑われるケースを発見したら、"福祉事務所" or "児童相談所"に"通告"しなければなりません。
臨床事例において虐待が疑われる場合は、警察よりも児童相談所(や福祉事務所)への通告が優先されることも十分あり得ると思います。
ただ虐待"死"(疑いを含む)の場合は、"児童相談所(や福祉事務所)"よりも"警察"への(異状死体の)届出が優先されます。
児童相談所に通告しても「その前にまず警察を」と言われると思います。
死亡例において、"警察"と"児童相談所"を選択肢に並べるのは少しやらしいですが、
・虐待を疑うような記載がない (→そもそも虐待事例ではないと考えるべき?)
・仮に「虐待の可能性が0ではない!」と思っても、警察への届出が優先される
このあたりから[b]を選べるとよいでしょう。
素直に考えれば受験生の多くは普通に[b]を選ぶと思いますけどね。