111F12
死亡診断書ではなく死体検案書が発行される状況はどれか.
a 不明熱の患者が,入院5日目に原因不明のショック状態となり死亡した.
b 予定されていた肝切除術を受けた患者が,多臓器不全となり術後5日目に死亡した.
c 末期がん患者が,在宅医の診察75時間後に心停止となり同医師が訪問して死亡を確認した.
d 外食中に意識を失って救急車で搬入され,くも膜下出血と診断された患者が,20時間後に死亡した.
e うつ病で通院中の患者が,診察6時間後に溺水状態で同病院に救急車で搬入され主治医が死亡を確認した.
正答は【e】です。
[a] 誤り(=死亡診断書の発行)。おそらく国試的には「(死因である)ショックは不明熱によるものである」と判断させて"死亡診断書の発行"を選ばせたかったのだと思うのですが、これに関しては個人的に多少異議ありです。後述します。
[b] 誤り(=死亡診断書の発行)。これも「多臓器不全の原因は肝切除(を受けるくらい治療が必要だった肝機能障害)である」→"死亡診断書の発行"と判断させたかったのだと思われます。
[c] 誤り(=死亡診断書の発行)。在宅医による末期がん患者の終末期であり、状況としても「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」です。"24時間以上"は超えていますので、死後診察の後に"死亡診断書の発行"が可能です。
[d] 誤り(=死亡診断書の発行)。生前に診断されたくも膜下出血による死亡であり、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」と判断できるので"死亡診断書の発行"でよいと思われます。
[e] 正しい(=死体検案書の発行)。「"溺水"の原因が"うつ病"である」と言えるか?ですが、問題文からはその因果関係がはっきりしません。国試的には「両者に因果関係がない」と判断してほしいようです。
「死亡診断書か?死体検案書か?」問題です。
これを解くために必要な知識は下記の2点だけです。
【"死亡診断書"を発行するケース】→ 自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合。
【"死体検案書"を発行するケース】→ 上記(="死亡診断書"を発行するケース)以外のケース全て。
これに尽きます。
要は「死亡診断書を発行するケース」さえ理解すれば良いわけです。
(→それ以外は全て「死体検案書を発行するケース」ですから)
死亡診断書を発行するケースは、以下の2つの文章で成り立ちます。
①自らの診療管理下にある
→ 自分が診察を継続している
②生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める
→ 生前に診療していた病気に関連して死亡したと判断できる
この両者を満たせば"死亡診断書"を発行します。
前置きが長くなりましたが、上記を踏まえて今回の問題をみていきます。
正直なところ、選択肢[a]なんかは個人的に異議があります。
『[a] → "ショック"の原因は本当に"不明熱"なのか?』
②の「関連した〜」に引っかかってきます。
ショックの原因は様々ありますから、
本当にこの"不明熱"がショックを引き起こしたのか?
"不明熱"以外の原因がショックを引き起こしたのではないか?
こういったことが考えられます。
原因が不明である以上、「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」に該当すると考え難いです。
そのため"死亡診断書"よりも"死体検案書"の方が正しい気がしますよね。
また"不明熱"を"原因不明の発熱"と捉えると「発熱が内因性疾患によるものかどうか?」も厳密にははっきりしません。
ですので、自信を持っては"死亡診断書の発行"は選べません。
『[e] → "うつ病"と"溺水"との因果関係はどうなのか?』
要は、「うつ病が悪化して入水自殺を行ったのではないか?」ということですね。
もしこれがyesであれば、生前に診療中の"うつ病"に関連して死亡したと言えそうですし、そうなると「死亡診断書の発行なのでは?」とも思えます。
ただこれに関しては、厚生労働省が過去に類似例のQ&Aを出しています。
Q. 統合失調症の患者が自殺した場合は、死因の種類は病死かそれとも外因死か。
→ A. 外因死を選択されたい。
これを考慮すると、『精神疾患の悪化による自殺は、死亡診断書のルール上は、病死ではなく外因死と判断すべき』であると考えられます。
つまり「病死←精神疾患寄りの判断」ではなく「外因死←自殺寄りの判断」をすべきであると言えるのではないでしょうか。
本問に戻りますと、「仮にうつ病増悪による入水自殺」であったとしても、自殺は(生前の)うつ病と別の事象として扱うべきで、
そうなると"死亡診断書"ではなくやはり"死体検案書"の発行が正しいのかな、と思ったりしました。
選択肢の[b]や[d]では、"異状死体の届出"に関する問題になると気になってくる選択肢です。
『[b] → 肝切除自体が多臓器不全を引き起こした可能性は無いのか?』
こちらは"死亡診断書の発行"自体は問題ないかも知れません。
ただ"肝切除後の多臓器不全"と言われると、「肝切除が多臓器不全を引き起こしたのか?」(→ 診療関連死)とも考えてしまいますよね。
そうなってくると「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体(=異状死体)」となるので、
「"異状死体の届出"は必要になるのかな?」と思ったりしました。
『[d] → くも膜下出血は、内因性なのか?外因性なのか?』
こちらも"異状死体届出の要否"が関係してきます。
死因に関係するこのくも膜下出血が、
検案医が"内因性"と判断している → 異状死体届出は不要。
検案医が"外因性"と判断しているもしくは疑っている → 異状死体届出が必要。
こうなってきますので「検案した医師がどう判断したか?」が重要です。
最後になりますが、今回の問題を通して最も重要なことがあります。
「死亡診断書か?死体検案書か?」
「異状死体の届出が必要か?どうか?」
両者を関連させて考えるのではなく、あくまで互いに独立したものとして考えてください。
もっと具体的に書くと、、、
「死亡診断書の発行だから異状死体の届出は必要」
「死体検案書の発行だから異状死体の届出は不要」
という単純なフローではないことを改めてきちんと理解してくださいね。