第95回医師国家試験 C問題 問3 [95C3]

95C3
68歳の男性.午前2時ころ救急隊によって搬送された.当直医が診察したところすでに死亡していた.この患者は前日午後4時ころ,他院の内科外来を受診しており,不安定狭心症と診断されている.入院治療を勧められたが患者はこれを拒否し,投薬を受けて帰宅したとのことである.死体の後頭部に擦過傷を認める.
当直医の対応として最も適切なのはどれか.

a 死因を狭心症として死体検案書を交付する.
b 他院の内科外来担当医に受診時診断名を確認し自ら死亡診断書を交付する.
c 他院の内科外来担当医に死亡診断書を交付してもらう.
d 病院長に死亡診断書を交付してもらう.
e 所轄警察署の警察医に死体検案を依頼する.




正答は【e】です。


[a] 誤り。当直医は直接狭心症を診断し、生前に診療を行っていたわけではありませんので、"死体検案書"を選択すること自体は正しいです。ただし、問題文から詳細は不明であるものの、後頭部に擦過傷があることから、死体検案書を交付して終わってしまうのではなく、異状死体として届け出る必要があると考えられます。

[b] 誤り。他院担当医に状況を確認したとしても、生前に自身が死因となる疾患の診療を行っていたわけではありませんので、交付するのであれば"死亡診断書"ではなく"死体検案書"が正しいです。ただし、[a]の通り、"死体検案書"を交付するにしても、死体の状況から異状死体の届出を行うべきだと考えられます。

[c] 誤り。本事例は、内科外来の24時間以内に死亡しており、当該内科医であれば、医師法 第20条の但し書き「但し、診療中の患者が受診後二十四時間以内に死亡した場合に交付する死亡診断書については、この限りでない。」によって、死亡診断書を交付することは可能です。ただし上記の通り、死体に異状ありと思われる所見を認識した以上、当直医は異状死体の届出を行うべきだと考えられます。

[d] 誤り。死亡診断書・死体検案書のどちらであっても、作成・交付するのは診断や検案した医師です。従って、病院長に交付する資格はありません。

[e] 正しい。上記の通り、やはり「後頭部の擦過傷」の経緯が不明であることから、警察書に連絡の下、警察医による死体検案を依頼するのが最も適切だと思われます。



臨床問題です。

これはかなり実務に則した内容ではないでしょうか。

正答自体はそこまで問題になることは少ないとは思います。

しかし、細かく見てみると、実は[c]がかなり高度な選択肢となっています。


解説文の通り、本事例は最終受診後24時間以内に死亡しています。

従って、救急搬送がなく、ダイレクトに生前受診した内科医に話が行ったような場合では、医師法 第20条但し書きの規定により、当該内科医による死亡診断書の発行ができてしまうんですよ。

ですが、本事例は、いわば第三者である医師が"異状あり"と判断し得る所見を認めているが故、当直医はその"異状あり"と思われる所見を無視して、内科医に死亡診断書を書いてもらうのは対応として不適となるわけです。


今回の事例のように、"医師法第20条の但し書き規定"は「受診後24時間以内に起こった異状をマスクしてしまう可能性がある」という問題を孕んでいます。

そのため、死亡診断書(死体検案書)記入マニュアルにも、

『このような場合(←但し書き規定のケース)であっても、死亡診断書の内容に正確を期するため、死亡後改めて診察するように努めてください。』

との注意書きがなされています。

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元々この医師法の規定自体が明治時代に作られたものなので、昨今の医療状況を必ずしも反映できた規定ではないのかも知れません。

皆さんも医師になったら、きちんと診察・検案の上で書類を発行するようにしましょう。



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