117B40
70歳の男性.肺炎で入院加療を受けている。肺炎が治癒したため、自宅に退院予定であった。担当医が早朝診察するために病室に入ったところ、点滴チューブの結合部が外れ、床面に逆流した血液が溜まっているのを発見した。患者の状態を確認したところ、既に患者の下顎に死後硬直を認め、死亡確認を行った。
この状況で次に行うべき適切な対応はどれか。
a 清掃の指示
b 異状死の届出
c 保健所への連絡
d 病理解剖の依頼
e 死亡診断書の記載
正答は【b】です。
[a] 誤り。「血まみれの状態はいたたまれないから、まずは綺麗に...」と、一般的に考えてしまうと選んでしまいそうになりますが、まず所轄の警察署に異状死として届け出た後、警察が来るまでは現場の状態を保存すべきです。
[b] 正しい。医師は死体を検案して異状があると判断した場合、届け出る必要があります。(医師法第21条) 法律上は"24時間以内に"となっていますが、可能な限り速やかに届け出るべきでしょう。
[c] 誤り。保健所へ連絡が必要なのは"指定感染症"や"食中毒"を診断した場合です。異状死の届出は所轄の警察署に届け出なければなりません。
[d] 誤り。異状死と判断される場合は、まず異状死の届出を行い、警察の検視後に事件性・犯罪性がないと判断された後に病理解剖が実施できます。異状死と判断されたのに、警察に届け出る前に病理解剖を実施してはいけません。
[e] 誤り。本事案では、明らかに「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」"ではない"ため、死亡診断書ではなく死体検案書を作成すべきです。
"異状死届出"に関する問題で、基本的なレベルと言えます。
本事案を"異状あり"と判断すべきケースであることはおそらく誰にでも分かると思います。
その上でどのような対応が必要なのか?ということですね。
選択肢を見れば明らかだとは思いますが、深く考え過ぎると、[a]と[b]で迷うかも知れません。
解説文にも書いたように、一般の方が問題文を読むと、
「まずはご遺体のお身体をきれいにしないと...」
「血溜まりが出来ているのにそのままにするなんて...」
と思って、[a]を選択してしまう可能性もあります。
しかし、この問題は"医師になるための試験"なので、医師として最適な選択をしなければなりません。
本問の場合は特に"診療関連死"でもあるため、警察の検視が行われる前に現場を片付けてしまったら、最悪"証拠隠滅"と捉えられかねません。
ですので、人として心苦しいとは思いますが、ここではそのままの状態で警察へ届け出て検視を待つべきだと言えます。
また「病院で亡くなっているし、死因が気になるから病理解剖を!」(→つまり[d])と思う方もいらっしゃるかも知れませんが、病理解剖が行えるのは事件性・犯罪性が否定された場合です。(※いわゆる"承諾解剖"として)
異状死と判断される以上は、きちんと警察に届け出る必要があります。
その上で、事件性・犯罪性が否定された後、やっと病理解剖を行うことができます。
もちろん「異状死ではない」判断した場合には、通常の流れで病理解剖を行うことができます。
ですが、死体解剖保存法 第11条では、下記のように定められています。
『死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関係のある異状があると認めたときは、二十四時間以内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければならない。』
ですので、検案では「異状なし」と判断していても、解剖中に改めて「異常がある」と認められた場合は、すぐに警察署長に届け出なければなりません。
途中にも書きましたが、本事案は"診療関連死"です。
なので、更にここに"医療事故調査制度"が絡んでくると問題として深みが出そうな気がします。
最後になりますが、「死亡診断書か?死体検案書か?」と「異状ありか?異状なしか?」は似ているようで別次元の話ですから、両者をごっちゃにしないように注意しましょう。
曖昧になっている方は今一度再確認してみてくださいねッ!