第117回医師国家試験 D問題 問1 [117D1]

117D1
救急外来を受診した患者の損傷の写真と創部を寄せ合わせた状態の写真とを別に示す。
この創の原因となったものとして最も考えられるものはどれか。

a 釘
b 包丁
c はさみ
d かなづち
e のこぎり

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正答は【b】です。


[a] 誤り。釘は基本的に"刺創"を形成します。ただし釘は"有尖無刃器"に分類されます。創部は太いもので銃創に似た丸い穿孔を形成しますが、細いものでは創部が閉じてしまい、創の形態を確認しにくくなってしまっていることがあります。

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[b] 正しい。"有尖片刃器"である包丁による刺創では、一方の創部の端(創端)が鋭く、もう一方の創端は鈍くなることが多いです。

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[c] 誤り。はさみも刺創を形成しますが、刃を閉じた場合と、開いた場合で少し形状が異なります。どちらにせよ、創縁は基本的に"鈍"となるため、別紙画像のようにはなりません。

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[d] 誤り。かなづちは基本的に"挫創"となります。従って、そもそも別紙画像のような"刺創"にはなりません。

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[e] 誤り。のこぎりも"刺創"は形成しません。刃の形状のように、創も鋸歯状で不整になっていることが多いです。

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創傷の"成傷器"に関する問題です。(参考記事:創傷 , , , , )

こんなに簡単ではありませんが、"成傷器"は法医の認定医試験にも出題されるくらい法医学では王道のテーマです。

なので、法医学者からしても「すごく実務的な問題だな」と感じましたよ。


問題自体は常識的に考えれば分かるので、難易度は高くないですね。

ただケチを付けようと思えば、、、

例えば、鋭い刃を持つはさみ(の片刃)なら本問のような創も作れてしまうかも知れません。

正答である包丁でも、薄い刃の場合は、片刃器であっても両創端が鋭くなることも少なくありません。

また切りつつ刺すような、いわゆる"刺切創"でも両創端が鋭に見えることも多々あります。


とは言え、法医学としてはすごく基本的で素晴らしい問題です。

でも、これ以上難易度を上げるのはなかなか難しそう...。

臨床医がよく誤用する"裂創"などを取り上げるともう少し歯応えが出そうですかね。



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