法医学と法人類学

時間の経った白骨が発見された際、果たしてそれは法医学者が扱うのか?それとも法人類学者が扱うのか?

そもそも両者はどう違うのか?

皆さんはそんなことをを考えたことがありますか。

今回はそれにまつわる話を書いていきたいと思います。



"法人類学"には、「人類学+法律学」という意味での"法人類学"もあるそうですが、ここでいう"法人類学"は『人類学+法医学』の"法人類学"(=司法人類学)[forensic anthropology]について書いていきますのでご理解ください。


法人類学とは『法科学・法医学の中の一部で、身元の特定や可能なら死因や死の状況を研究する学問』です。

日本において「法医学者は法人類学者を含んでいる」と言え、結局日本において『白骨は基本的に法医学者が扱う』ことが多いです。

ですので、上記の答えは『日本で白骨を扱うのは法医学者であり、その法医学者は法人類学者の役割も兼ねている。』

これが冒頭の質問に対する答えですね。

ここらへんの定義や考え方は人によって微妙に違いますので、今回の認識が絶対的なものではないことはご了承ください。


それでは詳しくみていきます。



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"人類学"とは文字通り『人間に関する様々な要素を追求していく分野』のことを言い、決して直接的な人体だけを扱うのではなく、言語や文字、文化なども含まれてくる概念です。

この"人類学"の中にさらに大きく"考古学"や"言語人類学"、"生物人類学"、"文化人類学"の4分野があるとされます。


"法人類学"は、特にこのうちの

"生物人類学":人類の化石からヒトの起源や進歩などを研究をする分野

に関係します。

この"(生物)人類学"に『法律や裁判のという意味を持つ"法-"が付いたのが"法人類学"』と言えます。

そこから発展し、前述のように『法科学・法医学の中の一部で、身元の特定や可能なら死因や死の状況を研究する学問』という概念が出てくるんですね。(※参考記事:法科学とは)


従って法人類学者も、つまるところ、

法人類学者:"白骨を専門とした法医学者"

というのが日本での認識だと思います。


皆さんにとっては、結局アメリカのドラマをイメージする方が分かりやすいのかも知れません。

TV的にも世の中的にも『法医学者≒法人類学者』のようなイメージだと思います。

ただアメリカにおける"法科学"や"法人類学"というのは、日本のそれよりもっと広い意味で使われている気がします。

日本では"法医学"という言葉が全てを含有してしまっているので、海外の本などを読んでいるとこういった認識が違っていて分かりにくいことがありますね...。


私が知る限りは、日本においては実際に法人類学者という白骨に特化した法医学者はほとんどいません。

結局「法医学者が法人類学者としての役割を兼務している」というのが実情だと思います。


白骨が発見された際に、警察からの依頼で法医学者が鑑定することになることも多いです。

これはやはり犯罪捜査の観点からです。

結局この"犯罪"という観点が必要になるからこそ、純粋な骨に関する学者ではなく、法医学者(≒法人類学者)に話が巡ってくるんでしょう。

「その発見された"骨らしき物体"が本当の"骨"なのか?」

「骨であるなら、"人骨"なのか"他の生物の骨"なのか?」

「人骨なら、どの部位の骨なのか?」

「その骨に異状はないか?何か状況の分かることはあるか?」


こういった知識が問われてきます。

かなり専門的になってくると、その骨の成分やDNAの状態を調べることで、年代を絞っていくことが可能だそうです。


ただ逆に"犯罪"という観点だからこそ『70年以上の古い白骨に関しては"人類学"(→法人類学ではない)の領分である』と書いてある本もあるくらいです。

仮にそれが犯罪に関係していたとしても「被害者も加害者も死んでしまっているであろう」ということだと思います。

私自身も「うーんなるほど...。」と思いました。



ということで、結局「"法人類学者"は法医学者の一部であり、白骨を専門とする法医学者」と言えます。

こう考えると、"法医学"や"法医学者"という言葉はとても広い範囲をカバーする言葉というのが分かりますね。

それでなおかつ実際にも広い範囲の知識を求められます。

大変ですがやりがいのある職業だと思いますね。