これまで様々な年齢推定法をご紹介してきました。
・歯の咬耗度 (参考記事①)
・歯髄腔の狭窄度 (参考記事②)
・頭蓋骨縫合の癒合状態 (参考記事③)
・恥骨結合面の状態 (参考記事④)
全身の骨がまとまって出てきた場合は上記の方法を使って年齢推定することができるでしょう。
しかし、歯や頭蓋骨、骨盤が見つからなかった場合にはどうすればよいでしょうか?
今回は"上腕骨"(もしくは大腿骨)が見つかった際に適用できる年齢推定法をご紹介したいと思います。
上腕骨内の"骨髄腔の高さ"を用いた年齢推定法です。
早速みてきましょう。
上腕骨骨髄腔の高さが...
外科頚以下 → 〜30歳以下
外科頚に達する → 31歳〜50歳
骨端線に接近する → 51歳〜60歳
骨端線に達する → 61歳以上〜
詳しくみていきます。
上腕骨や大腿骨といった骨の中には"骨髄"という血液を造る組織で満たされています。
その骨髄が満たされた空間を"骨髄腔"と呼ぶのですが、この"骨髄腔"の高さが年齢を経るにつれて上がってくるのです。
これを利用したのが"骨髄腔の高さを用いた年齢推定"です。
"大腿骨"も用いることがあるのですが、年齢推定には一般的に"上腕骨"の骨髄腔の高さが用いられることが多いです。
この"高さ"の基準に用いられるのが"外科頚"と"骨端線"の2つです。
【解剖頚】:大結節・小結節の直上で、およそ骨頭(ボール)の半球赤道面。
【外科頚】:大結節・小結節の直下で、細くなっていく部分。この部分で骨折しやすい。
この上腕骨の↓画像のように縦に割ります。
2つに割ると、"骨髄腔"と"骨端線"が見えてくるので、その位置を確認します。
骨端線:骨の端に出てくる線。成長期にはこのラインから骨が縦に伸びていく。
そして、その"骨髄腔・外科頚・骨端線"の位置関係で年齢を推定していくわけですね。
外科頚以下 → 〜30歳以下
外科頚に達する → 31歳〜50歳
骨端線に接近する → 51歳〜60歳
骨端線に達する → 61歳以上〜
ちなみに『女性に比べ男性では骨髄腔の進行がやや遅い』と言われます。
つまり『男性の場合は「上記推定年齢 (マイナス)ー10歳」すると良い』と書いてある本もあります。
この"骨髄腔の高さを用いた年齢推定"は、一見すると"高さの基準もある程度分かりやすく理解しやすい推定法ですね。
しかし、難点もあります。
上腕骨は2本、大腿骨も含めると合計4本の骨髄腔の高さを観察できます。
同一人物のものであれば、理屈では4本全ての骨髄腔の位置は一致はずですが...実際は4本とも同じ位置でないことも少なくありません。
また縦に割った際の位置がズレてしまうと、当然最高点もズレてしまいます。
結局、教科書通りに上手くいかないことも多いんですよ。
これまでいろいろな年齢推定法をご紹介してきましたが、どれも絶対的なものではないのです・
残念ながら、現実はどれも必ずある程度の幅を持たせた推定年齢にせざるを得ません。
"死後経過時間推定"と同じくらい、"年齢推定"は法医学者にとって永遠テーマです。
決定的な手法が未だ開発されていない現時点で法医学者ができることは、、、
発見状況や着衣、所持品...等々、年齢推定に活用できるものは何でも使って、できる限り正確な年齢推定を心掛けるだけですね。