頭蓋底骨折1 (ブラックアイ・ラクーンアイ、バトルサイン)

今回は"頭蓋底骨折"について書いていきます。

特徴的な所見である"ブラックアイ"や"バトルサイン"などについても取り上げたいと思います。



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"頭蓋底"とは文字通り「脳を入れている頭蓋腔の底の部分に当たる箇所の骨」を指します。


"頭蓋骨"は主に、この底の部分の"頭蓋底"と、ドームの部分の"頭蓋冠"(円蓋部)に分けられます。

ドームの部分は、転けてぶつけたり殴られたりすることで割れる(=骨折する)のはイメージしやすいと思います。

実はこの"頭蓋底"部分が割れてしまうことも多々あり、我々もしばしば出会います。


頭の底の部分なので、頭蓋冠に比べると直接ぶつけることは少ないです。

ではどうやってこんな深いところが骨折するのか?

・尻餅をついてしまって、背骨が頭蓋底を突き上げることで骨折する
・顎を打ち上げられることで、底に衝撃が伝わって骨折する
・頭蓋冠の骨折が頭蓋底まで続いて骨折する

個人的な印象では、最後のように「交通事故などの強い衝撃によって(他の部位も含め)頭蓋底も骨折している」というケースが多いでしょうか。



またこの骨折した頭蓋底の部位で更に3つ分けることがあります。


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・前頭蓋底
・中頭蓋底
・後頭蓋底


これら骨折部位によって臨床症状も含めて所見が違うんですよね。


・前頭蓋底骨折

こちらは下に眼や鼻が控えています。

なので、ここを骨折するとその部位に出血が広がったりします。

・『ブラックアイ・ラクーンアイズ・パンダの目徴候』
・鼻出血、髄液鼻漏

こういった所見が特徴的とされます。


『ブラックアイ・ラクーンアイズ・パンダの目徴候』とは、その名の通りで、目のまわりに頭蓋底からの出血が降りてきて、目のまわりに広がった状態です。

「ラクーン」とはアライグマのことで、アライグマやパンダの目に似ているからこう呼ばれます。

後述の所見にも同様のことが言えるのですが、『決してこの眼周囲を直接打撲したわけではないのに、この部位に出血が浸潤し広がる』という点が重要なポイントです。

また脳の周りには髄液が流れていますので、それが骨折(亀裂)から鼻に垂れてくることで髄液鼻漏は起きます。

また目のまわりの骨までに骨折が広がると眼の動きが制限されることもあり、臨床ではこれが問題となります。


・中頭蓋底骨折

こちらは前頭蓋底と後頭蓋底に挟まれた部位の骨折ですね。

次回記事の"縦骨折・横骨折"に関係してきます。

この部位の下には耳がありますので、前頭蓋底同様に骨折部位から出た血液が下の耳に広がっていきます。

・『バトルサイン・バトル徴候』
・耳出血、髄液耳漏

"バトルサイン"とは、ちょうど耳の後ろあたりに出血痕が広がることを言います。

前述のように、この部位を打撲しているわけでありません。

骨折しているのはあくまで"中頭蓋底"なんです。

臨床では、やはり難聴の恐れのある外傷なので注意が必要です。


・後頭蓋窩骨折

この部位の下には脊髄が続いていたり、生存に重要な部位である脳幹が存在ます。

ですので、この部位の骨折は中枢神経(脳や脊髄)に重大な損傷を負っている可能性もあり、致命傷として法医学上も重要な骨折です。

・後頚部出血斑
・咽頭粘膜出血斑
・血性髄液

後頭蓋底の骨折でも、そこから出血した血液が浸潤し広がります。

上記のように、頚の後ろや、外からは見にくいですが喉の奥に広がることがあります。



このように同じ頭蓋底でも骨折部位の違いによって所見が違うんですよね。

解剖を始める際には、鼻や耳から出血がないか?や、こういった特定の部位に出血斑がないか?と確認するのはこういった理由でもあるんです。

また『出血斑の部位が打撲部位とは違う』というのも法医学上すごく重要で、警察官はそれに気づかず「ただの軽い打撲」だと思っていたら、解剖で頭蓋底が激しく骨折していたり...ということを経験したこともあります。

頭(→脳)の損傷は致命傷になり得る臓器ですから、それを守る頭蓋骨の所見は法医学ではかなり重要となります。


次回は特に"中頭蓋底骨折"に関係してくる"縦骨折・横骨折・輪状骨折"について書いていきます。

そちらもよろしくお願いします。