一言で"解剖"と言っても複数種類のある解剖。
今回は6つある【解剖の種類】について書いていきたいと思います。
法医学と聞くと、おそらく多くの方が真っ先に"解剖"をイメージすることでしょう。
ただその"解剖"関して、法医学では
①司法解剖
②調査法解剖
③行政解剖
④承諾解剖
と実に4種類の解剖を扱っているんです。
ちなみに、これらを4つを合わせて【法医解剖】と呼びます。
長くなりそうなので、今回はひとまず①司法解剖と②調査法解剖に絞って書いていきたいと思います。
ひとつずつ確認していきましょう。
もしかしたら医学生の方々には試験対策になるかも知れませんね。
まずは一つ目の『①司法解剖』です。
これは皆さんにとっても最も耳馴染みのある解剖かもしれませんね。
ただ正確には"司法解剖"と直接書かれた条文はなく、これはあくまで通称であって、刑事訴訟法(第168条等)に書かれている解剖を指します。
刑事訴訟法なので、『犯罪の捜査』が目的として行われます。
そしてこれに基づき、犯罪捜査上必要な場合に、裁判所が許可(ないし要請)した上で、そのご遺体の解剖が行われます。
あえて難しく書くと、警察等が解剖が必要と判断すれば、裁判官に裁判の許可状(鑑定処分許可状)をもらった上で、鑑定嘱託書と併せ、我々法医学医をその鑑定人として解剖を嘱託し行われます。
書類には鑑定人(≒執刀医)の名前が名指しされており、その"個人"に対して嘱託されます。
この際の鑑定人は『学識経験者』とされ、実は厳密には別に医師でなくても嘱託され得ます。
ただ実際のところはほぼ100%医師免許を持つ法医学者ですけどね。
試験対策としては、"遺族の同意は不要"という点がポイントでしょうか。
犯罪捜査が目的なので、万が一遺族がその犯罪に関わっていて隠蔽等しないとも言えませんし、社会秩序を守るため・公共の利益のためにやむなしということです。
"犯罪捜査の上で必要な場合"と書きましたが、実際は「司法解剖は犯罪の関与が明らかであるかもしくは疑われるケースに対して実施される」いうのが今の実状な気がします。
司法解剖の必須書類には『被疑者名("不詳"も多い)』と『罪名("殺人被疑事件"など)』が毎回書かれています。
犯罪関与が明らかな場合には司法解剖が行われ、逆にそういった犯罪の疑いが全くないご遺体に対しては司法解剖が選択されない、という運用は分かりやすいですよね。
しかし、『犯罪が"疑われる"場合』というのはすごく解釈に難しいですよね。
「死因がわからなければ全て"犯罪関与の疑いがある"と言えるのではないか?」と個人的には感じてしまいます。
その微妙なところに関しては、丁寧な調査の上、プロである警察や裁判所の方々が適切に判断してくださっているので、私が口を出すところではないのでしょう。
そのような時代に出来たのが、②"警察等が取り扱う死体の死因又は身元の調査等に関する法律に基づく解剖(通称:死因・身元調査法解剖もしくは調査法解剖)"です。長い。
2013年に出来たばかりで、4つの法医解剖の中で最も新しい解剖の種類です。
制度ができた当初は、"新法解剖"とも呼ばれたりしていましたが、さすがに5年以上経っていますので、個人的には「(呼び名は)"調査法解剖"で良いんじゃないか」と思ったりしています。
この調査法解剖の目的は『死因特定』です。
警察の関与はあるのですが、直接は犯罪捜査を目的とした解剖ではありません。
犯罪が関係していなくても、ご遺体の死因が不詳だと、遺族を含めた周りの人間は不安になりますよね。
仮に不幸な事故や災害で亡くなっていた場合なら、その根本原因を食い止められるかもしれないことから死因の究明は必要だ、という論理です。
ただ実際のところは、「そもそも初期の調査で犯罪の関与が判断できるのか?」といったような批判に関連した"犯罪の見逃し防止目的"な意味合いも含まれているみたいです。
確かに、都道府県によってはかつて、"司法解剖には当てはまらないが完全に犯罪の可能性が否定もできないケース"において、遺族の同意を必要とする(後述の)承諾解剖が運用されていた経緯があります。
本来であればこういうケースも司法解剖が行われるべきだと個人的には思いますが、いろいろな事情でそういった運用ができていないところも多いのが実状です。
"調査法解剖"では遺族の同意は必要なく、解剖をするかどうか?を決める権限は"警察署長"にあります。
裁判所は絡まないので書類もあっさりしたものになります。
その他、"調査法解剖"に関して細かい話を言えば、
・司法解剖とは違って個人の名指しで指名されるわけではなく、大学の法医学教室といった機関単位であること
・警察から支払われる費用額が違うこと
・解剖結果を遺族に説明できること
などが司法解剖との相違点です。
最後の遺族説明の点だけさらに補足すると、、、
"司法解剖"では犯罪捜査の観点から、例えその犯罪に関係していない遺族であっても、解剖結果を含め詳細を教えてもらうことはできません。
ですが、調査法解剖では、その目的から考えてもわかるように、遺族の不安解消という意味でも、遺族へ解剖結果の説明ができます。
これは一般の皆さんにとってはもしかすると最も大きな違いかもしれませんね。
まだまだ書き切れませんが、ひとまずここで一旦区切って次の記事に移りたいと思います。
次回は『行政解剖・監察医制度と承諾解剖』です。