今回は"一酸化炭素中毒死・CO中毒死"について取り上げていきたいと思います。
CO中毒は火災によって死亡する主要な原因のひとつです。
また火災関連だけでなく、自殺の手段としても使用されることがあります。
『"一酸化炭素"は薬毒物中毒死の中の7割以上を占める、最も死亡者の多い薬毒物』という側面もあります。
従って、この病態や機序を知ることは法医学にとって極めて重要です。
また我々の業界の中では、湯沸器動作不良による一連のCO中毒死事故が未だ記憶に新しいです。
この事故を契機に、日本の法医学・死因究明制度を改めて見直すべきだという議論も巻き起こりました。
そんな"CO中毒"について詳しく見ていきます。
一酸化炭素は無色無味無臭で、空気よりもわずかに軽い気体です。
『有機物の不完全燃焼』によって発生します。
なので前述のように火災によって一酸化炭素が生じたり、車の排気ガスに含まれていたります。(※最近の車は改善され排気ガス中のCOはかなり減っている)
一酸化炭素が吸入されますと、血中のヘモグロビンと結合します。
ヘモグロビンは通常酸素と結合するわけですが、一酸化炭素は酸素に比べて200〜300倍ほど結合しやすい性質があり、なおかつその結合が離れません。
なので、一酸化炭素を吸入すると、ヘモグロビンは優先的に一酸化炭素と結合してしまい、そのため相対的に酸素が結合できなくなり、身体は低酸素状態となります。
また『一酸化炭素が細胞内にある呼吸に関連した酵素を直接阻害して酸素利用ができなくなる』という機序もあります。
ちなみに、"青酸カリ・シアン化カリウム"による死亡もこの後者と同じような機序です。
青酸カリを服用すると胃の中で胃酸と反応し"青酸ガス(シアン化水素)"ができます。
その青酸ガスに『細胞内呼吸酵素を阻害する性質』がありますので、酸素利用障害が起きるというものです。
このような細胞レベルの酸素利用障害を"内窒息"と呼んだりもします。
※外の酸素のやり取り(=いわゆる呼吸)が障害されるものを"外窒息"と呼びます。 例:縊頚など
話は逸れましたが、血液中の一酸化炭素ヘモグロビン(CO-Hb)濃度は健常人で0〜1%です。
タバコの煙にも一酸化炭素が1〜2%ほど含まれていますので、喫煙者のCO-Hb濃度は4〜15%ほどであるとも言われています。
CO-Hb濃度が60%以上になってくると死の危険が出てきます。
ただ高齢者や心疾患を持っている場合は50%程度でも死に至ることがあるとさています。
症状は血中濃度にもよりますが、頭痛、倦怠感、嘔気・嘔吐、意識障害などです。
血中のCO-Hb濃度は、空気中のCO濃度とその曝露時間によって変動します。
前述の通り一酸化炭素はHbとの結合能力が高いため、例えば空気中のCO濃度が1%だった場合、1,2分程度で死に至ります。
しかも無色・無臭ですので、症状が出るまで気付きません。
その症状ですら、高濃度の一酸化炭素の中では数分で死に至ってしまうわけです。
法医学の分野では『CO中毒によって亡くなったご遺体の死斑は"鮮紅色・鮮赤色"である』というのはドラマでも有名な話です。
これはCO-Hb自体が通常のHbに比べて鮮やかな紅色をしており、それが皮膚を通して見えるためです。
ただしCO中毒以外にもご遺体の死斑が赤くなるケースはありますので、単純に『死斑がとても赤い→CO中毒だ!』というのはやや安直な印象を受けますね。
血中のCO-Hb濃度は専用の機器を使用すれば比較的簡単に分かります。
ですので、数字が高値であればCO中毒という診断そのものはそこまで難しくはないと言えるのかもしれません。
しかし、それが微妙な値だったり、置かれていた環境や状況を加味した解釈というのが現実には難しいんですけどね。
実際にCO中毒死のご遺体をみる機会は多くあります。
しかし、その度にどうやればそれを避けられたのか?どうしたらこの人を救えたのか?そんなことを考えてしまいます...。
ということで、今回は一酸化炭素中毒・CO中毒について取り上げました。
皆さんもこれを学び、実生活においていかに一酸化炭素が発生する状況・環境を避けるか?というのぜひ一度意識してみてください。