第115回医師国家試験 F問題 問15 [115F15]

115F15
死亡確認された成人遺体で,背部から下腿後面にかけての死斑と顎関節および四肢関節の硬直がみられた.角膜の混濁はみられず,直腸温は32℃であった(外気温20℃).
推定される死後経過時間はどれか.

a 1時間以内
b 6〜12時間
c 24〜30時間
d 36〜42時間
e 48時間以上





正答は【b】です。


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[b] 正しい。直腸温(32.0℃)は外気温(20.0℃)に一定していないので、死後経過時間の推定法として"直腸温法"が適用できます。(37.0 ー 32.0) ÷ 0.8 =6.25 (=6時間25分) 従って、死後6時間程度の時間を含んでいる[b]が適切と判断できます。角膜混濁もまだごく軽度であっても矛盾はしません。

[a] 誤り。死後1時間以内であれば、死斑や死後硬直はぎりぎり出始めていてもよさそうです。ただ顎関節だけであればともかく、このくらい死後早期にも関わらず硬直が四肢関節にまで出現しているのはやや違和感を感じます。また上記の通り、直腸温が32℃というのは死後1時間後としてはやや低下しすぎている印象を受けます。(生前に平熱であれば、死後1時間なら直腸温は30℃半ば辺りか) 生前に低体温症等であったことが疑われる記載もないため、やはり選択肢[b]の方が適切と考えられます。

[c] 誤り。死後24〜30時間であれば、死斑や硬直が出ていることは矛盾しません。ただし前述の直腸温が矛盾する(→死後1日ならおそらくもう外気温と一致しているはず)のと、死後1日以降であれば、ある程度度角膜混濁がしっかり出ていてもよい気がします。

[d] 誤り。死後36〜42時間であれば、死斑や硬直は出ていてもよさそうです。(硬直はそろそろ解け始めますが) あとは直腸温と角膜混濁の程度が矛盾しますね。

[e] 誤り。死後48時間であれば、場合によっては硬直は殆ど解けてしまっている可能性もあります。また早ければ腐敗(緑変)が来ているかも知れませんね。直腸温と角膜混濁については、[d]の解説と同様です。



死後経過時間を推定する問題です。(類似問題:92E11, 98I24, 102E42)

外気温には一致していないので"直腸温法"を用いた死後経過時間の推定ですぐに解けてしまいますね。(参考記事:「直腸温を用いた死亡時刻推定法」)


選択肢もだいぶ予防線を張って「6時間〜12時間」という幅を持った正答となっています。

直腸温に基づく計算で出した"約6時間"という死後経過時間についても、

他の選択肢に被らないように"1時間"と"24時間〜"という絶妙なインターバルになっていますね。

そのおかげもあってか、受験生の正答率も極めて高かったようです。


実務上では、ある特定の一時刻を死亡(推定)時刻として死体検案書にすることも多いですが、

法医学者の頭の中では、今回の問題のように、幅を持った時刻をイメージしています。

そういう意味では、ある意味で実務的な問題かも知れません。(実際はこの問題みたいに薄い情報だけで死後経過時間を推定することは殆どありませんが)



しかし、外気温に一致していなければ、国試上は単純な計算で死後経過時間を簡単に推定してしまえるので、こういった類いの問題は果たして今後出題されるのでしょうか...。

こういった"死後経過時間・死亡時刻の推定問題"も出し尽くされた感があって、「今後どうなっていくのだろう?」と勝手に心配になったりします。笑



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