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異状死体として医師が届け出る必要がないのはどれか.すべて選べ.
a 初診患者が救急外来到着後30分で明らかな心筋梗塞で死亡した.
b 最後の診察から18時間後に自宅で癌性腹膜炎で死亡した.
c 脳出血の診断で病理解剖中に頭蓋骨骨折を発見した.
d 風邪で投薬治療中に自宅で死亡していた患者を検案した.
正答は【a, b】です。
前提:医師法21条【医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。】
※検案:死因等を判定するために死体の外表を検査すること。
※「平成25年度版死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル」より
[a] 正しい(=届け出の必要がない)。「病院到着後の明らかな病死(=心筋梗塞)」ということなので、異状死体の届け出は不要と考えられます。
[b] 正しい(=届け出の必要がない)。「診察された疾病(=癌性腹膜炎)による死亡」ということで、異状死体の届け出は不要と考えられます。
[c] 誤り(=届け出の必要がある)。病理解剖は"死体解剖保存法"に規定されていますが、同法第11条に「死体を解剖した者は、その死体について犯罪と関係のある異状があると認めたときは、24時間以内に、解剖をした地の警察署長に届け出なければならない。」と定められています。これに基づき、頭蓋骨骨折を異状として認知した場合、異状死体の届け出が必要となる可能性があります。
[d] 誤り(=届け出の必要がある)。単なる風邪では死に至ると考えられず、死因がはっきりしない状況等を"異状"と捉えたのなら、異状死体の届け出が求められる可能性はあり得ます。
医師法21条、"異状死体の届け出"に関する問題です。
正直これに関する問題にはいろいろと賛否両論あるかと思います。
ちなみに正答については某国試問題サイトも確認しているのですが、そちらで[a][b]が正答となっていたので上記の通りとしています。
「[a]と[b]は届け出の必要はなさそう」と答えるのは比較的簡単だとは思います。
ただし、[c]や[d]は人によっては微妙と感じるかも知れません。
特に[d]は、検案した上でどうだったのか?という記載が問題文にないので、選択肢としては不適切だと個人的には思いますね。
そういう意味で、「『届け出は不要である』と明確に判断できる[a]と[b]が正答なはずだ!」と回答していくのが正解への道筋なのかも知れません。
(そうであれば"択2"と明記してほしいところですが...)
法医学では現在「異状死体とは、確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体以外の全ての死体である」と定義しています。
そのように考えると「[c]も[d]も異状死体の届け出が必要である」と判断するのも容易です。
ですが、この「そもそも"異状"とは何なのだ?」という点については、現場を中心に未だに混乱が生じている印象は否めません。
実際にこの問題が国試に出題されたのが1991年
法医学会が"異状死ガイドライン"を発表したのが1994年
死亡診断書・死体検案書の様式が変更になったのが1995年
広尾病院事件が起きたのが1999年
大野病院事件が起きたのが2004年
"法医学的異状"の記載がマニュアルから消えたのが2015年
、、、今考えるといろいろと事情が込み入っていますが、出題当時ならそんなに異存のない問題だったかも知れませんね。
そういった理由からも、このような問題は近年はおそらく出題し難いテーマと言えるでしょう。
出題されたとすれば、もっと明確に「異状死体である」というのが文章から分かる問題になっていると思います。
今回は古い問題ということでご愛嬌といったところですかね。