110F18
92歳の男性.要介護5.腰椎圧迫骨折で3年前からベッド上での生活が主となり家族の要請で訪問診療を開始した.過去1年間に誤嚥性肺炎で2度入院した.最近3ヵ月は食事の摂取が困難で著しい衰弱状態となっていた.さらに唾液の誤嚥による発熱を繰り返すため,注射での抗菌薬投与が在宅で随時実施されていた.訪問診療の担当医から家族に対しては,「衰弱が著しく脱水症もしくは肺炎などで突然命を落とす可能性が高い」と伝えられていた.担当医の最後の診療は昨日であった.本日午前6時に家族が患者を起こそうとして,患者の呼吸が止まっていることに気付き,すぐに担当医に連絡した.30分後に担当医が到着し診察した時点では,異状死体の所見を認めず,死後数時間が経過していると考えられた.
必要な対応はどれか.
a 担当医が死体検案書を作成する.
b 担当医が死亡診断書を作成する.
c 警察医が検視後に死体検案書を作成する.
d 警察医が司法解剖後に死体検案書を作成する.
e 病院での死後画像診断に基づき死亡診断書を作成する.
正答は【b】です。
[a] 誤り。
[b] 正しい。担当医からみて「自らの診療管理下にある患者が、生前に診療していた傷病に関連して死亡したと認める場合」と言えるので、"死体検案書"ではなく"死亡診断書"の作成が適切です。
[c] 誤り。本事例のご遺体は「確実に診断された内因性疾患で死亡したことが明らかである死体」ですし、『異状死体の所見を認めず〜』と記載されていますので、警察への届出はそもそも不要と考えられます。
[d] 誤り。[c]の解説の通り、そもそも警察への届出は不要ですし、(判断するのは本来警察ですが)本事例は"非犯罪死"と思われ、司法解剖となる事例でもないと思います。
[e] 誤り。結局のところ、生前に予想していた「衰弱による脱水症もしくは肺炎」で亡くなったと当該担当医が判断するかどうか?だと思われます。もしそれが断定できないのであれば、選択肢にあるように「病院で死後画像検査を行う」ことはあっても全く問題ないと思われます。もしこの死後画像検査を他院で行い、その病院の医師が死亡関係の書類を作成するような場合は「自らの診療管理下」とは言えないため、"死亡診断書"ではなく"死体検案書"の作成となります。
"終末期患者の在宅看取り"に関する臨床問題です。(類似問題:98B2, 101E9)
正答自体はあまり迷うことなく"死亡診断書の作成"が選べるとは思います。
選択肢[e]がやや曲者です。
解説にも書いたように、訪問診療の担当医が生前に予想していた「衰弱による脱水症もしくは肺炎」と断定できない場合は、
地域の病院等に協力を要請し、死後画像検査を行ってもらう可能性は全然無きにしも非ずです。
そして、その結果を受けて、当該担当医が改めて「衰弱による脱水症もしくは肺炎で亡くなった」と確信できる場合は、その旨を書いた"死亡診断書"の作成となります。
もしここで「衰弱による脱水症もしくは肺炎」ではない原因、特に『生前に診療していた傷病』に関連しない死因で亡くなったと判断される場合には、
当該担当医であろうと、検査した病院の医師であろうと、"死体検案書"の作成となります。