指紋法

法医学と聞いて皆さんが最もイメージするのが"指紋"かも知れません。

ドラマでもよく目にしますが、実際に自分の指紋をまじまじと見たことのある人は少ないのではないでしょうか。


指紋には

【終生不変】:一生涯で変化することはない
【万人不同】:二人として同じ指紋の人はいない

という性質があり、その特徴が犯罪捜査等に利用されています。


"指紋"に関する知識は法医学者にとっても必須です。

今回はそんな"指紋法"について簡単に説明していきたいと思います。



指紋は大きく下記の3タイプがあります。

・弓状紋 (きゅうじょうもん:10%
・蹄状紋 (ていじょうもん):40%
・渦状紋 (かじょうもん):50%


さらにこれを細かく分類し、ある指紋が本当にその人の指紋かどうか?というのを鑑定していくわけですね。

それぞれについて詳しく見ていきましょう。



①弓状紋:日本人の約10%に認められる。

kyuujoumon.jpg

定義は『弓状線で形成される指紋』です。


kyuujousen.jpg

※弓状線:弓状、波状または突起状をなす隆線。


画像の通り、山型の指紋ですね。



②蹄状紋:日本人の約40%に認められる。

teijoumon.jpg

『蹄状線を含み、その流れの方向の反対側に三角州を有する指紋。』

※蹄状線:馬蹄形をなす隆線。


蹄状紋では、この"蹄状線"がこれが母指側に流れているか?小指側に流れているか?でさらに細分化します。


teijoumon_koushu.jpg

・『甲種蹄状紋』:蹄状線が母指側に流れている蹄状紋。


teijoumon_otsushu.jpg

・『乙種蹄状紋』:蹄状線が小指側に流れている蹄状紋。


この細分類をするには左右どちらの指か?という情報が必要です。

見ただけでは少しわかりにくいかも知れません...。


"三角州"という視点からみてみましょう。

sankakusu.jpg

「三角州」とは、上画像のような三角形を成した部位を指します。

これを踏まえると、

「甲種蹄状紋は三角州が小指側」
「乙種蹄状紋は三角州が母指側」

という見方もできます。



③渦状紋:日本人に最多の50%で認める。

kajoumon.jpg

『環状、渦巻状、二重蹄状形状等の隆線の左右に三角州を有する指紋。』

こちらは先ほどの三角州という視点から、それが左右にあるものを言っています。

意外?に日本人の指で最も多いのがこのうず状の指紋なんですよね。



続いてそれ以外の指紋を取り上げていきます。


④変体紋:弓状紋・蹄状紋・渦状紋のいずれの種類にも属さない指紋。

hentaimon.jpg

これはまさにゴミ箱的な「その他の指紋」です。



⑤損傷紋:指紋の永久的な損傷により、他の指紋に分類できない指紋。

sonshoumon.jpg

こちらは指が傷付いていたりして、それが"永久に"残るような場合に該当するケースになります。

次に挙げる一時的な不完全紋との違いに注意です。



⑥不完全紋:一時的な損傷・摩耗等により、他の指紋に分類できない指紋。

hukanzenmon.jpg

こちらは、本来はちゃんと指紋があるはずなんですが、採取した時点で"一時的"にそれが確認できない状態な指紋です。

指紋だけを見て「それが"永久的"なのか?"一時的なのか?"」というのをどう判断しているのか私は知りたいです...。


⑦欠如紋:指頭の大部分が欠如し、いずれの種類にも属さない指紋。

ketujomon.jpg

こちらの場合は、そもそも指がなかったり、指自体が失われていることから、指紋を分類することができないケースですね。



以上、合計8種(蹄状紋は2種なので)が大きな指紋のタイプになります。

本来はここからさらに

『"乙種蹄状紋"を4タイプに』
『"渦状紋"を3タイプに』

へ分けて合計13種類に分類します。

ただしそれを説明し始めると長くなってしまいますので、またの機会に取り上げたいと思います。



さて、ここまで具体的な分類法を書いてきましたが、大事なのは『分類した後どうするのか?』ということです。

分類しただけではただしんどい思いをして指紋をスタンプしただけで終わりです。


DNA鑑定にも繋がる話ですが、指紋法は以下の2つの目的があります。

・目の前の人が本当に"その人"であるか?を確認する (→なりすまし防止、identify)
・現場に残された指紋が、犯人(と思われる)人物の指紋や警察の持つデータベースにある指紋と一致するのか?確認する(→犯人特定)

これらを目的として行われます。



現場に残された指紋はきちんとした指紋であるとは限りませんので、その欠点を改善するべく考案されたさらにさらに細かな分類等もあります。

しかし、近年は機器のレベルが発達し、機械が自動で読み取り、その指紋の特徴的なポイントと照らし合わせてくれたりするようですね。

思っている以上に指紋の分類は難しく骨が折れるんですよ...。

昔はそれを人の手で一生懸命やっていたと考えると、本当に昔の捜査員・係員の方々はすごいなと思いますね。


ちなみに現在の指紋法は、『指紋の中にある特徴点(特徴的な部分)を照合し、それが12カ所以上一致すれば"同一指紋"として判断する』というものです。

特徴点1箇所の合致につき偶然一致率は10分の1なので、12箇所ということは『10の12乗分の1=1兆人に1人』ということです。

全世界の人口が80億人弱ですから十分と言えますね。


皆さんもこれを機に一度ご自身の指紋と向き合ってみてはいかがでしょうか。