法医学(自殺)と精神疾患

もし自殺したいと思っている方がいらっしゃったら、まず下記の相談窓口などに気軽にお話してください。


kv_img.png
kv_img-tel.png
kv_img-sns.png

出典:厚生労働省HP 「まもろうよ こころ」
[https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/]




法医学者は、自殺を遂げたご遺体をみる機会が多々あります。

我々自身ではなかなかそのご遺体のバックボーンや周辺環境を調べることはできません。

しかし、警察から頂いた情報を死因究明に役立てさせてもらっています。


今回は『法医学(特に自殺)と精神疾患』について書いていきたいと思います。



自殺者の中で、精神疾患(※疑いも含む)を抱え自殺する人はとても多いです。


実際に論文を調べてみると、

【全自殺者の約4割が精神疾患を抱えていた】

と報告しているものがありました。

他にも古い欧米のものでは『80-100%』と報告されているものがあるくらいです。


自殺のご遺体をみる側の人間である私の感覚から言うと、きちんと診断されていないだけで、もっと多い気がします。

『自殺する前段階で、ほとんどの人が(うつ病を始めとする)精神疾患になってしまっているのではないか?』

とすら感じます。



他の自殺統計をみていきましょう。

令和2年におけるデータです。(※"コロナ禍"という特殊状況下です)


自殺者は『21081人』でした。

男女比は『男:66.7%、女:33.3%』でした。

自殺者は『10月が最も多く、2月が最も少なかった』です。

自殺者の年齢は『40代が全体の16.9%と最も多かった』です。

自殺の原因は『"健康問題"が48.8%と最も多かった』です。

自殺者の職業は『無職者が55.6%と最も多かった』です。



精神疾患を抱えた自殺者に関する論文をみてみますと、

精神疾患のうち、最も多いのは『うつ病』で全体の6割ほどを占めるようです。

次いでアルコール中毒、統合失調症と続きます。

30代以下の比較的若年者では『統合失調症』の割合が多く、40代以上になると年齢を重ねるつれ『うつ病』の割合が上がってきます。


最近は高齢者の自殺者も増えてきていると言われます。

実際に私も『80代の自殺者』をみることがあります。

言い方は悪いですが、「もう少しで大往生なのかも知れないのに...」と自分勝手に思ってしまうこともあります。。

故人にもいろいろと事情があるのでしょう。


また、本当はうつ病なのに認知症と判断され、最終的に自殺に繋がってしまうという報告もあるようですが、なかなかこの実態把握は難しいですね...。



ここからはあくまで私見になりますが...。


冒頭に書いたように、法医学者からみてもやはり『自殺と精神疾患』はかなり密接に関係しているように私は感じています。

亡くなる前に向精神薬やアルコールを摂取した上で自殺するご遺体も多いです。

逆に、日頃悩んでいても家族にすら悟られることなく遂げてしまうご遺体に出会うことも少なくありません。

しかし、それでも全く理由なく自殺という手段を選択する方はほとんどいない印象です。


そもそも「何を以て精神疾患であるか?」というのは精神科医ではないので私には詳しくはわかりません。

『自殺を選んだ方々が全て精神疾患を抱えていたはずだ!』なんて極端なことも言うつもりはありません。

ただ少なくとも自殺を選択してしまった多くの方が、何かに悩み、苦しんだ中で自殺を選択しているような気がしてならないです。


実際に法医学者が単独で自殺者を救うことは難しいです。

それでもこういった統計データ等を通して、少しでも苦しんでいる方が減ることを願うばかりですね...。

この問題は医学全体で考える必要があると思います。