「世界各国と比べても日本は解剖件数が少ない」
そんな話をよく聞くと思います。(参考記事:「日本の解剖率」)
実際、法医解剖(司法解剖+調査法解剖+行政解剖+承諾解剖)の件数を見てみると、
全国の法医解剖件数:約2万件
そのうち
大学法医学教室:約1万2000件
+監察医機関:約8000件
といったところです。
これを踏まえた上で、今回は『年間どれくらい解剖すべきなのか?』というのを考えていきたいと思います。
【理想?】
解剖率目標 → 20% ≒ 年間3万4000件
【現実】
解剖率 → 12% ≒ 年間2万件 (※行政解剖も含む)
※警察取扱死体は年間17万件とする...
【結論】
理想を達成するなら...法医学医は年間173件の解剖を行う必要がある。
それが無理なら...『法医学医の数は今の2倍以上必要である』
詳しくみていきましょう。
正直なところ、解剖率目標の"20%"もどこまで意味のある数字か?というのはありますが、今回はひとまずそれは置いておいて『解剖率は20%』が理想目標とします。
日本には大体150人の法医学認定医・常勤医がいます。
従って、警察取扱死体年間17万件に対して"20%の解剖率"を適用すると...
全国で年間3万4000件の解剖を行うことになります。
行政解剖(監察医解剖)が8000件で固定と考えると、
大学の法医学医1人あたりにすると...(34000-8000)÷150 ≒ 【173件/年】です。
このままだと『法医学医は年間173件の解剖が求められる』ということですね。
しかし、これは法医学医にとってかなり厳しい数字です。
文部科学省によると、現時点で法医学医1人あたりの解剖件数は全国平均で【82件/年】です。(最小:16件/年 〜 最大:262件/年)
なので、このまま何も変えず、今いる法医学医の努力だけで頑張ろうと思えば、
『法医学医は今の2倍以上頑張らないといけない』ということです。。
法医学の間では『頑張ってもせいぜい100件/年』とも言われます。
それを考えると『173件/年という解剖件数がどれだけ無理難題か?』というのが皆さんにも理解できるかと思います。
無理矢理にでも解剖率20%を満たそうと思うなら、
①それでも法医学医の解剖件数を増やす
②警察取扱死体を減らす
③法医学医の人数を増やす
これしかありません。
①は...無理です。ごめんなさい。
②は、もしそんなことすれば本末転倒ですよね。
ということで、結局③になってくるわけですよ。
【法医学医の人数を増やす】
現時点で法医学医1人あたり約80件/年の解剖を行っているため、大学法医学教室で年間2万6000件を満たそうと思うと、、、
26000÷80 = 325人
つまり『全国で325人の法医学医が必要』というわけですね。
ここで再び現在の法医学医の人数を振り返ってみると...【約150人】
現状で175人の法医学医が足りていません。
ということで、『解剖率20%を目指すなら法医学医は今の2倍以上必要である』ということです。
実際にそれを受け入れるだけのポストは全くないわけですが...。
海外の法医解剖の提言を読んでみると、
『法医学医1人あたりの年間解剖数は325件を超えてはならない』
『法医学医1人あたりの年間解剖数は250件を超えないようにすべき』
という記載は確かにあります。
ただこれは解剖を専門とする"監察医"が多くいる国の話です。
逆に「どれくらい効率化された解剖システムなんだろう?」と思うくらいです。
この数字を日本にそのまま適用はできません。
日本にも監察医はいますが決して多数派ではなく、実際の法医学医のメインである大学教員は"解剖"の他、"研究"や"教育"といった業務も行わなければなりませんからね。
ということで、これはあくまで机上の空論ですので、必ずしも的を射ているとは私も思いません。
ただ世の中の人に、少しでも「このままでは到底無理なんだな」というのを理解してもらえれば幸いです。
そして、この悪条件がこの先少しでも良くなることを私は願っています。