DNA鑑定1

今回は"DNA鑑定"について書きたいと思います。

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専門的な内容を書き出すと長くなってしまうので、今回はできる限りさわりを簡潔に書いていきたいと思います。

気になる方は専門書を読んでください。笑


今回はDNA検査の総論として、特に、

『DNA検査は①何のために、②何に着目して行われるのか?』

という話に焦点を絞って書きます。



とは言え、まずはそもそもの"DNA鑑定"についてです。

DNA鑑定:『個人のDNA配列(型)の違いを用いることで個人識別や性別判定、親子鑑定等を行うこと。』


DNA鑑定では必ず"比較対象"が必要になります。

つまり『比較対象との違い』に注目して判断していきます。

またDNA鑑定では、別にDNA配列の1から10まで、本で言えば一言一句全く同じであるか?とみているわけではないんですよね。

あくまで『個人で差がある部分に限定して比較している』のです。



現在のDNA鑑定のメインは

①『個人識別』のために
②『"STR"(Short Tandem repeat)の多型』に着目して

でしょう。

馴染みがない言葉かと思いますが、きちんと解説しますのでご安心ください。



①何のために?

これは前述のように

・個人識別:個人を特定。誰であるか?誰のものか?
・性別判定:性別を推定。男性のものなのか?女性のものなのか?
・親子鑑定:血縁関係・親子関係の証明。

などが挙げられます。

以前記事にした"人獣鑑定"を目的としてDNA検査が行われることもあります。(参考記事:「人獣鑑定」)



続いて②何に着目するか?です。

ざっくりと書くと『DNA配列(型)の違い』の一言で終わってしまうのですが、少し詳しくみていきましょう。

・DNAフィンガープリント(DNA指紋)
・ミニサテライト
・STR(マイクロサテライト)
・SNP



『DNAフィンガープリント』

この手法では、制限酵素というものが使用されます。

この酵素は、ある特定のDNA配列があると、その部分を切断する機能があります。

その酵素をたくさん集めて、調べたいDNAと比べるDNAをバラバラにしてしまいます。

そして、そのバラバラになったDNAを電気泳動することで大きさ順に並べ、DNAを光らせるさせることでそれを見比べるというわけです。

複数部位のDNA領域を光らせる"マルチローカスプローブ法"や、1カ所のみのDNA領域を光らせる"シングルローカスプローブ法"があります。

バラバラになりますが、DNAの配列は人それぞれで微妙に違うので二つとして同じパターンにはなりません。

これがDNA"指紋"といわれる所以ですね。


DNAフィンガープリントは特に親子鑑定で力を発揮します。

子は両親の遺伝子を一つずつ受け継いでいるので、基本的に子のパターンは両親どちらかのパターンを踏襲しています。

パターンはバーコードみたいに見てわかりますので、理屈はわかりやすいです。

ただ逆にやや主観的な要素もあり、その点はデメリットになります。


また元々長いDNAをバラバラすることによって判定します。

しかし、その元々のDNAが壊れていたら(短くなっていたら)、バラバラにした後のパターンにも大きな影響が出てしまいます。

親子鑑定のように新鮮で綺麗なDNAを抽出できる場合は良いですが、犯罪現場や腐敗した物体においてはDNA自体の状態が悪いことも多いので、その場合は不向きと言えます。



『ミニサテライト』『STR(マイクロサテライト)』

これらの考え方はほとんど同じです。

先ほどのDNAフィンガープリントは、DNA配列そのものに注目していました。

こちらの2者では"DNAの反復配列"に着目します。

DNAは【A T G C】の4種類の塩基がズラッと並んでいます。
例えば、

AGCTCTTATTAACCATTGTTCTCGAGGCT...

みたいな感じですね。

ヒトはこれを両親から1つずつ合計2本あります。

この並び(配列)の中で同じ配列が何回も繰り返されているところがあるんです。


・ミニサテライト(VNTR, Variable Numbers of Tandem Repeats)の場合:数十塩基の繰り返し(リピート)

...AGCTCTTAT[TAACCATTGTTCTCGAGGCT][TAACCATTGTTCTCGAGGCT][TAACCATTGTTCTCGAGGCT][TAACCATTGTTCTCGAGGCT][TAACCATTGTTCTCGAGGCT][TAACCATTGTTCTCGAGGCT]CTTA...

みたいな【TAACCATTGTTCTCGAGGCT】の繰り返しです。(例は6回)


・STR(Short Tandem Repeat) = マイクロサテライトの場合:2〜5塩基の繰り返し

...CT[CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG][CG]AGGC...

これは【CG】が12回リピートしています。


なのでこのように両者の違いは「リピート単位の長さの違い」だけです。

ただその長さの違いが大きかったりします。

このミニサテライトやSTRを調べるには、この部分のDNAをコピーして増幅していく必要があります。

そこでミニサテライトのようにDNAが長いと、『そのDNAをコピーするのに時間がかかってしまう』んですよね。

「(ミニサテライト=)数十塩基 × (例えば)20回反復」だったとしたら、下手をすると1000塩基以上をコピーしていかなければならなくなりますからね...。

また長いということは、前述のDNAフィンガープリントでも書いたように、『DNAの状態が良くないといけない』です。

長いとそれだけリピート部分が壊れるリスクも高くなりますからね。

そういった理由から、法医学分野でDNA反復配列を扱う際は、現代では"STR"であることがほとんどです。

なので法科学・科捜研/科警研のメインはここになってくるわけですね。


こういったリピート回数は、個人によって差があるんです。

例えば、「Aさんは○○というDNA領域の[CG]リピートは、【6回+12回』のタイプです。」みたいな感じです。

そして、人種によってこのリピート回数の存在確率がある程度わかっていますので、6回と12回を持つ確率をかけ算して、偶然の一致率を考えられるわけですね。

1カ所を調べただけでは(偶然の)一致率はまだまだ高いですから、それを複数箇所調べることでどんどん一致率を下げていきます。

DNA鑑定導入当時は、ミニサテライト法の1カ所で『数百人に1人』
その後STR法に変わり9カ所調べて『1100万人に1人の確率』
さらに6カ所追加し15カ所で『4兆7千億人に1人』
そして最近は、21カ所に増えて『565京人に1人』

と、かなり天文学的な数字になってきています。

全世界の人口が80億人弱ですから、どこまで増やすべきなのか...という問題はあると思いますけどね。(※プライバシー問題等)



・SNP(Single Nucleotide Polymorphism):1塩基の違い

これはATGCの塩基の並びのうち、1つだけが違っているという状態を指します。

...TTGTT[C]TCGAGG...

...TTGTT[A]TCGAGG...


科学の進歩でたった1塩基が違うことすら検出できるようになったのですね。

これは究極の1塩基だけなので、ずっと言ってきた長さの問題・保存状態の問題は最も影響を受けないはずです。

ですが、1塩基の違いということは、残り3通り(3塩基)しかあり得ません。

つまり存在確率のバラツキがSTRに増して弱くなります。

極端な例で考えると、ある部位のSNPにおいて、A・T・G・C がそれぞれ25%の存在確率であれば、この1カ所だけ判断すると4分の1の確率で他人と一致してしまう可能性が出てくるわけです。

なので、先ほどのSTRの以上に多くの領域を調べる必要が出てきます。

ただ1塩基だけの違いなんて、長いDNAの中にはたくさん存在しています。選び放題です。

現在どの組み合わせが良い識別力となるか盛んに研究されていたりします。



以上、ざっくりとDNA鑑定の話を書いてみました。


"DNA鑑定"という言葉自体は皆さんも聞いたことがあると思います。

今回の記事で「実際にDNA鑑定は何をしているのか?」というのが理解できましたでしょうか。


法医学者の中でもこの"DNA鑑定"(法科学・法遺伝学)を専門にしている詳しい人もいれば、あまり興味を持たない人もいて、法医学の中でもある意味特殊な分野と言えると思います。

むしろ科警研・科捜研の方が実務の上でも詳しかったりします。


DNA鑑定は、かつては大学の法医学教室で行われていました。

しかし、現在では、通常のDNA鑑定に関しては科捜研などで行われることがほとんどです。

法医学教室で行われることは決して思っているほど多くはなく、特殊な鑑定の場合で、ミトコンドリアDNAやSNPを使用したもの、または先進的な研究になるかと思います。


個人的には興味のある分野なので、ぜひ法医学としてももっと盛り上がると良いなぁと思っていたりします。

ちなみに、法医学におけるDNAに関する学会は、医学だけなくなんと「水産、動物、植物、人類、法学...」等々、とても幅広い領域から成る学会だったりします。笑


今回は少し長い記事になってしまいました。

別の記事で各論についても書ければと思います。

またよろしくお願いします。