第86回医師国家試験 A問題 問90 [86A90]

86A90
死亡診断書の死亡の種類が外因死となるのはどれか.3つ選べ.

a パラコート剤を誤飲,間質性肺炎を合併して死亡
b 農作業中,鎌で指を切り,破傷風を合併して死亡
c 登山中,てんかん発作が起こり,転落し頭部外傷で死亡
d 胃癌切除手術後に,院内感染による肺炎で死亡
e 高血圧症の患者が階段から転落し,頭を打ち頭蓋内出血で死亡




正答は【a, b, e】です。



前提:死亡診断書・死体検案書の"死因の種類"は、【"原死因"が疾病か?外因か?】で判断します。(参考記事:"死因の種類")

※原死因:「直接に死亡を引き起こした一連の事象の起因となった疾病又は損傷」又は「致命傷を負わせた事故又は暴力の状況」のこと。基本的には"死因Ⅰ欄の1番下の傷病"を指します。

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[a] 正しい(=外因死)。「パラコート誤飲を契機とした間質性肺炎による死亡」なので、原死因は"パラコート誤飲"です。"誤飲"は内因ではなく、外因です。問題文には誤飲を起こした特別な疾病などの記載はなく、誤飲は"事故"による"外因死"と判断できます。

[b] 正しい(=外因死)。ここでの原死因は「指の切創」であり、切創は"外因"です。「外因を契機とした感染症」であるため"外因死"です。

[c] 誤り(=内因死)。こちらは「内因性疾患が契機となった外傷死」であり、原死因は"てんかん発作"となります。従って"内因死"(→死因の種類は"1")となります。

[d] 誤り(=内因死)。問題文に"胃癌切除手術後"という記載があって惑わされますが、あくまでも死因は"肺炎"なので、"内因死"(→死因の種類は"1")となります。

[e] 正しい(=外因死)。こちらも問題文に"高血圧症の患者"とあって内因性を匂わせますが、死因は結局「転落による頭部外傷死」です。従って"外因死"です。



法医学問題として王道の【"死亡診断書か?死体検案書か?"問題】です。

オーソドックスでありつつ、依然として重要な法医学テーマです。

この類いの問題、深く考え出すと実は結構悩んでしまいます。


例えば、[a]では、誤飲を来すような疾病、例えば高度の認知症があれば原死因は"認知症"となる場合も考えられますよね。

そうなると、認知症という内因性疾患が大本の原因になるため、"内因死"となり得ます。

解説の通り、誤飲を惹起するような疾病の記載はないので、常識的に"単なる誤飲(=事故)"と判断すべきなのでしょう。


また[d]では、肺炎は院内感染によるものということで、手術自体はおそらく特別関係していないと判断できます。

ただし、もしこの"院内感染"と"手術"との間に相当程度の強い因果関係があったのなら、そして「手術が院内感染を引き起こした」と医師が判断した場合には、原死因は"胃癌手術"(→外因死)となるかも知れません。


このように、実務の中では、医師が悩むような場面も少なくないのです。

逆に、国試では情報量の圧倒的に少ない短い文章で出題せざるを得ません。

ですので、「"死因の種類"は"原死因"に基づいて判断する」という原則を押さえて、シンプルに・常識的に判断して回答すれば正解は難しくないでしょう。



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