「法医学」と聞くと、ドラマのような"犯罪事件"を皆さんは連想すると思います。
しかし、実際に犯罪に関係した解剖は多くないんです。
『法医学で扱う死因の7割が病死である』
とよく言われています。
今回はこれについて書いていきたいと思います。
日本の法医解剖率は『全死亡者の"1.4%"』『警察取扱死体の"11.8%"』でした。(参考記事:「日本の解剖率」)
そんな少ない中、法医解剖で扱う死因の殆どが犯罪が関係した"外因死"ではありません。
資料によってもばらつきはありますが、7割ほどが病死と言われます。
以前も書きましたが、我々が扱う死因で最も多いのが"虚血性心疾患"でしたね。
そこからも「病死が多いこと」が分かると思います。(参考記事:「法医学で最も多い死因」)
それでは、3割が"病死以外"つまり"外因死"なのか?という話になります。
"外因死"といっても、殺人事件のように全てが犯罪に関与したものではありません。
例えば、誤って転倒し頭をぶつけて脳出血で無くなった場合や、熱中症でなくなった場合も"外因死"に分類されます。
また、死因が"不詳"や"自殺"症例もあります。
そういったことを考えると、純粋な犯罪に関係した外因死(=ドラマで出てくる法医学)は決して多くないというわけですね。
私の実感としても3割でも多すぎるくらいの印象で、実際はもっと少ないです。
それでも外因死の鑑別は法医実務でもとても重要です。
教科書を見ても、このように扱う死因として"外因死"は少ないながらも、かなりのページが割かれています。
その重大性からも決して見逃してはいかず、法医学者にとって絶対的に不可欠な知識ということですね。
また、あくまで解剖を行うことで「殺人事件ではなく事故死だった、病死だった」ということが判明することもよくありますので、法医解剖に無駄が多いわけでもないです。
逆に「事故死・病死と思われていた事例が殺人だった」ことが解剖によって証明されるとそれはまさにドラマのような展開ですが...。
ということで、法医学のテレビドラマでは外因死ばかりを取り上げていただけますが、『実際は病死の方が断然多い』という話でした。
なかなかドラマ性が難しい(≒視聴率が取れない?)のでしょうが、純粋な病死を軸とした放送回も是非増やしてほしいものです。