96B24
死体検案時の外表所見において生活反応と判断できないのはどれか.
a 水中死体における鼻口腔内の微細白色泡沫液
b 焼死体における第Ⅲ度の熱傷
c 一酸化炭素中毒死の鮮紅色の死斑
d 青紫色を示す皮下出血
e 痂皮を伴った表皮剝脱
正答は【b】です。
[a] 正しい(=生活反応と判断できる)。いわゆる「溺死の際に認められる口からの泡」(専門用語:"シャウムピルツ" ※独語)のことです。死戦期の呼吸運動によって溺水が泡立つことで出来るため、"シャウムピルツ"は生活反応と判断できます。
[b] 誤り(=生活反応と判断できない)。「第Ⅲ度熱傷=真皮を超え皮下脂肪まで熱傷が及ぶ」であり、臨床でいうところの"deep burn"です。熱傷は第I〜Ⅲ度(ないしⅣ度)までありますが、このうち生活反応(≒生きている時に受けた傷)と判断できるのは、第I度ないし第Ⅱ度までだと言われています。従って、第Ⅲ度熱傷だけでは生活反応と判断できません。
[c] 正しい(=生活反応と判断できる)。CO中毒における鮮紅色死斑は基本的に生活反応と判断されます。死斑は全身の血液が就下・沈下したものですが、CO中毒ではその血液が、COと結びつき鮮紅色を呈します。このため、死斑が鮮紅色を呈するには、生前にCOを吸入し、その血液が全身を循環する必要があります。"吸入する・循環する"ということは生存しているわけですから、死斑の鮮紅色は生活反応と判断できます。(参考記事:CO中毒)
[d] 正しい(=生活反応と判断できる)。皮下出血は生活反応と判断されます。仮に死後に打撲をしたとしても、血液循環が止まっているため、出血は基本的に起こりません。従って、「(皮下)出血が出来る=生きている」と考えられるのです。
[e] 正しい(=生活反応と判断できる)。確かに表皮剥脱自体は生活反応ではありません。死後の受傷でも表皮剥脱は出来得ます。しかし、痂皮(かさぶた)は、生前に受傷し治癒過程の中で出来るものです。そのため、"痂皮"を伴う場合の表皮剥脱は生活反応と判断できるわけです。ちなみにこの際、単なる"流血の乾燥"(←生活反応なし)と"痂皮"(←生活反応あり)を間違ってはいけません。
"生活反応"に関する問題です。(参考記事:生活反応)
臨床にはあまりない着眼点なので、かなり法医学的な問題です。
内容も結構難しいですね。
正答である[b]も、単なる"熱傷"というだけでなく、きちんと
「第I度ないし第Ⅱ度までが生活反応として判断される」
というところまで覚えておかねばなりません。
"シャウムピルツ"についても、「口から"水"が出てきました」というのではなく、「口から泡が出てきました」という所見が大事ということです。
水だけでは死後に流入した可能性もありますし、「泡 → 呼吸運動があった」とう点が重要であることをしっかり理解してほしいところですね。
また"表皮剥脱"では、「表皮剥脱自体は生活反応と判断されない(=死後の受傷で出来得る)」という点も重要です。
だからこそ、我々は実務でも「表皮剥脱に伴う(生活反応を示す)"痂皮"や"出血"」に最大限の注意を払っているのです。
以上より、今回の問題はなかなか難しい問題でした。