今回は"精液検査"についてです。
性犯罪が起きた場合、その行為が存在したことを証明しなければなりません。
男性が加害者である場合に行われるのが"精液検査"です。
『顕微鏡で精子を直接確認する』というのは誰しもパッと思いつくと思います。
しかし、精液検査はそれだけではありません。
・紫外線検査
・PSA簡易検出キット
・酸性ホスファターゼ試験:SMテスト
・コリン結晶試験:フローレンス法
・スペルミン結晶試験:ハルベリオ法、プラーネン法
・顕微鏡検査:無染色法、バエッキー染色、コリン・ストッキー染色、オピッツ染色
いろいろな方法があります。
詳しくみていきましょう。
実際、精液に含まれる成分のうち、精子は全体の10%に過ぎません。
つまり90%は他の成分(前立腺液や精嚢液など)から成る精漿で出来ています。
ですので、最終的にはもちろん精子自体を確認することが必要になりますが、検査の中にはこの豊富な精漿成分を検査対象としている検査もあります。
精子の大きさは全長が50〜60µm(0.05mm)、DNAを持っている頭部の大きさは5µm(0.005mm)です。
髪の毛1本の太さがおよそ50µmくらいなので、その小ささが分かると思います。
精子は数日間は生存します。(参考記事:「超生反応」)
2-3週間後のご遺体からも精子が検出できたという報告もあります。
こんなに小さな精子自体をいきなり顕微鏡で探すのは骨が折れます。(もしなかったらかなりの骨折り損です...)
ですので、顕微鏡で探す前にまず精液かどうか?を判定する"スクリーニング検査"から行われ、そこで陽性だったものを顕微鏡で実際に観察する流れになります。
「紫外線検査」
この検査は最も簡単です。
精子は紫外線を当てると青白く光るんです。
ただしこれは精子以外にも広く認められる反応ですので、これだけで精液だと判断してはいけません。
あくまでも「精液がありそうな場所がわかる」くらいの認識です。
「PSA簡易検出キット」
こちらは法医学用に販売されている"PSAキット"を使用します。
人獣鑑定にも利用されることがあるという話も以前書きました。(参考記事:「人獣鑑定」)
このPSA(前立腺特異抗原)は前立腺がんや前立腺肥大症で上昇する腫瘍マーカーとしても知られていますよね。
PSAは前立腺液に含まれているので、PSAを検出することで、間接的に精液の存在を確認するというわけです。
キット化されており簡便でなおかつ高感度ですが、時間が経っていたりすると検出できないこともあります。
「酸性ホスファターゼ試験」 ex) SMテスト
これは精液中の前立腺液に含まれる"酸性ホスファターゼ"を検出する検査です。
SMテストでは、"SM試薬"という市販されている薬品を使います。
このSM試薬をを吹きかけると酸性ホスファターゼが存在していれば赤紫色に呈色します。
ただしこれに関しても、精液以外に酸性ホスファターゼが含まれる体液は多くあるので、決して特異度が高い訳ではありません。
「コリン結晶試験」 ex) フローレンス[Florence]試験
ヨウ素+ヨウ化カリウムを加えることで、精液中に含まれるホスホリルコリンやグリセルホスホリルコリンといった"コリン"を結晶化させ、顕微鏡で観察します。
フローレンス法で出来る結晶は褐色で、粒状→針状→菱形状→板状と変化していきます。
この検査は他のスクリーニング検査に比べ比較的感度は高いですが、やはり他の体液でも認められることがあります。
「スペルミン結晶試験」 ex) ハルベリオ[Barberio]法、プラーネン[Puranen]法
これらの検査では、"スペルミン"という精液中のタンパク質を結晶化させます。
ハルベリオ法では黄白色の柱状、十字状、星形の結晶が出来、プラーネン法では黄色の十字状の結晶が出来ます。
こちらの結晶試験は、コリン結晶試験と比べると比較的特異度が高いと言われています。
「顕微鏡検査」 ex) バエッキー[Baecchi]染色、コリン・ストッキー[Corin-Stockis]染色、オピッツ[Oppitz]染色
この検査ではダイレクトに精子を探します。
従って、これが本試験・確定診断(証明)になります。
無染色法は染色をせずにそのまま観察を行い精子を確認します。
他の染色法では、各方法で使用する染色液は多少違いますが、基本的にどれも精子の頭の部分が赤く染まります。
そうすることで、精子を見つけやすくするという意味合いもあります。
新鮮な精子では意外と簡単に見つかりますが、1週間以上経って腐敗が進んでくると、精子の尾部(尻尾の部分)から壊れていき、頭部だけしか見つからないことも多々あります。
それでもできる限り完全な精子を検出することが重要です。
ただし無精子症などの場合はそもそも精液はあっても精子はいませんので、この検査で確定することはできません。
前述の精漿成分を検出する検査を駆使する必要があります。
以上、各精液検査について書いてきました。
ある意味原始的な検査が多かった印象を受けたかも知れません。
しかし、精液だと証明された場合は、次にその精子に対してDNA検査を行い、個人識別を進めていくことになります。(参考記事:「DNA鑑定」)
性犯罪は悪質です。
だからこそ、それを証明するための検査手法が昔からたくさん考案され改良されてきました。
それでもなおまだまだ立証困難例があるのは事実です。
以前書いたデートレイプドラッグでもそうでしたが、こういった検査をうまく成功させる鍵は時間との勝負でもあります。(参考記事:「デートレイプドラッグ」)
実際に性犯罪に遭われた際は、なかなか周りに言い出しづらく辛いことかと思いますが、ぜひ独りで悩まずに周りに相談してみてください。
それとともに「皆さん自身が賢くなること」も性被害を減らすひとつの予防策だと私は思っています。
ぜひ皆さんにも常に有用な知識・情報のアンテナを張っていてほしいです。