2021年8月20日発売 岩波新書 (出版社URL)
『法医学者の使命「人の死を生かす」ために』(著:吉田 謙一)
-異状死の死因を解剖・検査を通して究明し、法的判断の根拠を提供するのが法医学者の役割だ。その判断はどのように行われるのか。法医学者が死因を誤り、犯罪死を見逃すのはどのような場合か。日本の刑事司法および死因究明制度のどこが問題か。長年第一線で活躍を続け、数々の冤罪事件の鑑定を手がけた法医学者が、これまで経験した事件を取り上げながら訴える。(※出版社サイトより)
この本を読んだので、今回は簡単な感想でも書きたいと思います。
率直に『これは法医学者にとって素晴らしい本』と感じました。
一方で、正直「一般の方にとってはやや難しいと感じるかな?」とも思いました。
一応医学的な内容に関しては簡単な説明が書かれていますが、専門的な医学用語も多用されているので、医療関係者でないとすんなり読めない可能性はあります。
そういう意味では、同業者である法医学者に向けた本と言えるかも知れませんね。
ただし、テーマ自体は社会的に問題になっている事柄ばかりですし、本自体も比較的薄く私自身も数時間で読了できたので、決して読み進めるのが不可能ということではありません。
内容としては、著者本人の経験を踏まえた具体例を挙げつつ、現代の法医学における問題点を指摘しています。
そして、それらを解決するためにどうすれば良いのだろうか?という視点からの記載も見られます。
特に本の中では、メインとなる趣旨として、
・ストレス起因性突然死
・専門家の参加等の重要性
・医学的判断と法的判断の齟齬
・医療関連死、冤罪防止
の4つが挙げられています。
個人的に特に感銘を受けたのが、2つ目に挙げた『死因究明における臨床医を始めとした専門家参加の重要性』ですね。
得てして、法医学者は自身の経験と知識を頼りに独りで苦悩しがちですが、「それではいけない!」と。
その道のプロでもある診療科臨床医の意見も聞きつつ、時には解剖にも立ち会ってもらうことの重要性を説いています。
私自身もこれに強く賛同しますね。
もちろん法医学者はオールラウンダーで、広く深い知識は持っているべきですが、やはり現実はなかなかそうもいきません。
死因究明を法医学だけの問題にするのではなく、臨床医学も巻き込んで、医学全体の責務として協力していくべきだと、改めて思いました。
もっともっと書きたいことはありますが、あまり書くとネタバレになってしまうので、簡単ですがこれくらいにして...。
先程も書いたように、本自体は新書サイズの220ページで、お値段も1000円しません(¥880)ので、是非実際にお手元に取って読んでいただきたいですね!
興味深い本でした。