現在日本において、"死"は原則三徴候説に基づいて診断されてます。
ところが、以前も書きましたが、法律でこの"死"を直接規定・定義したものはないと言われています。(参考記事:「三徴候説」)
臓器移植法(臓器移植に関する法律)に関しても、
「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者」
=「脳死した者」
から「医師が移植術に使用されるための臓器を摘出することができる」
ということを規定しているに過ぎません。
ただあまり知られていませんが、唯一"死"について明文化された省令(=大臣の命令)があるんです。
それが「死産の届出に関する規程」の中の『死児に関する定義』です。(参考URL:厚生労働省サイト)
条文を見ると、一見すると"三徴候説"らしき文章が書かれているのですが、実際は一般的な"三徴候"とは少し違います。
今回はこれをみていきたいと思います。
「死産の届出に関する規程」の第2条にはこうあります。
【この規程で、死産とは妊娠第四月以後における死児の出産をいひ、死児とは出産後において心臓膊動、随意筋の運動及び呼吸のいづれをも認めないものをいふ。】
つまり死産においては、
・心臓膊動
・随意筋の運動
・呼吸
これら3徴を認めないものを"死児"と定義しているのです。
ですが一般的な"三徴"は、
・"心"機能
・"脳"機能
・"呼吸"機能
でしたよね。
「脳機能」が「随意筋の運動(=四肢の運動や啼泣等)」に代わっています。
なぜこれが違っているのでしょうか?
結論を言うと、その理由ははっきりしません。。
通常の臨床医学では、"対光反射"によって「脳が機能しているか?」を判定します。
新生児・乳児では、対光反射で脳機能を判定するのは難しいのでしょうか。
調べてみると子宮内の胎児であっても胎生30週で光に対する反応はあるようですし、新生児であっても対光反射による確認は有用な気もしますが...。
逆に言うと、確かに胎生30週未満の早産児では有用でない可能性はあります。
そういう意味では、対光反射より随意筋運動(≒四肢の動き)で判断する方が良いのかも知れませんね。
早産児でも四肢の運動や啼泣は基本的にあるはずなので。
四肢運動や啼泣がある→脳からの信号がきちんと筋肉に届いている→脳から信号が出ている→脳の機能が保たれている
という解釈なのだと思います。
これは新生児における"アプガースコア"の考え方にかなり似ている印象です。
「万が一麻痺があったらどうするのか?」という気もしないではないですが、実際はそれが問題になってケースは報告されていないようなので大丈夫なのでしょう。
ということで、今回は"死産における三徴候"でした。
唯一明文化された"死"に関する定義でしたが、その"三徴"はいわゆる一般臨床における"三徴候(説)"とは少し違っていました。
その理由は私にははっきり分かりませんでしたが、きっと何かあるんだと思います。
もしお知りの方がいらっしゃったら是非教えてほしいですね。