遷延性窒息

"窒息"と聞くと、数分程度の短時間で死に至るイメージがあると思います。(参考記事:「窒息」)

ところが、そうではなく比較的長期間経過した後に亡くなる病態の"窒息"も存在するのです。

それが"遷延性窒息"です。

今回はそんな"遷延性窒息"を取り上げたいと思います。



【遷延性窒息】:窒息状態から比較的長時間経過後に死亡する病態のこと。

詳しくみていきます。



まず勘違いされやすいのですが、この"遷延性窒息"は「窒息状態が遷延する」という意味ではありません。

実際のケースをみると、むしろ「窒息状態自体は短時間である」ことが多いです。

ですので、正確には「その"窒息"から引き起こされる病状が"遷延"し死亡する」という認識が正しいです。


この"遷延性窒息"では、最終的には「肺胞低換気からの循環不全や低酸素脳症」によって死に至ります。

"比較的長期間"に関しては「時として窒息から数時間〜半日以上」後に死亡することがあるとも言われます。



この"遷延性窒息"は下記のような状況で起こり得ます。

・窒息が不完全であり、少ない空気で呼吸が行われた
persistent-asphyxia1.jpg

・窒息状態に陥ったものの、短時間でその窒息状態が開放された
persistent-asphyxia2.jpg

・吸入する酸素濃度が徐々に低下していった
persistent-asphyxia3.jpg



この際、窒息の程度が"軽度"であれば、当然すぐに体調は改善し完全回復します。

逆に窒息の程度が"重度"であれば、その窒息を契機として直接急性窒息で亡くなってしまいます。

しかし、窒息の程度が上記のように"中等度"であった場合は、窒息によって直接亡くなってしまわないまでも、完全回復できるほど軽症でもない障害を受けることで起きます。


身体の中で酸素不足に最も敏感であるのが"脳"です。

従って、この障害は主に"低酸素脳症"として現れます。

人工呼吸器の普及もあってか、この"低酸素脳症"に関しては、救急の現場で近年比較的よく出会うようになってきている気がします。

なので、法医学者よりもむしろ救急医の先生の方が馴染みがあるかも知れませんね。


ちなみに、ドラマなどでは「一度意識を失うものの再び意識を取り戻し、その後死亡してしまう」といった表現がなされますが、個人的にそれにはやや疑問を抱いています。

窒息状態に陥ると基本的にリアルタイムで脳がダメージを受けてしまうので、「再び意識を取り戻して何か行動を起こすなんてできないのでは?」と思うのですが...どうでしょう。



また"急性窒息死"では"急死の3徴"が有名な所見でした。

・溢血点
・うっ血
・血液流動性

一方で「"遷延性窒息"は("急死"ではないため)3徴は著明でない」と言われます。

ただ、これは機序を考えれば当たり前ですね。

単純に"窒息"というキーワードに飛びついてしまってはいけません。



以上、今回は"遷延性窒息"について書いてきました。

もしかすると、この言葉自体には馴染みがなかった人も多いかも知れません。

ですが、ざっくりと「窒息を契機とした低酸素脳症による死亡」と考えると、経験したことのある医療従事者の方も意外と多いのではないでしょうか。

法医学ではそれを"遷延性窒息"と呼んでいるのです、、、と言いたいところですが、

冒頭に書いたように、"遷延性"という言葉が「窒息状態が遷延した〜」という意味に勘違いされ得ますし、教科書の記載としても"遷延性窒息"は近年あまり見かけなくなってきています。

それでも、死因を考える際に必須となる病態ですから、法医学知識としてはひとつ知っていても良いと私は思いますね。