『解剖時にはどんな人が立ち会っているのか?』
今回はこれがテーマです。
ドラマでもよく解剖シーンが描かれています。
基本的にそういったドラマの描写に大きな間違いはないとは思います。
ただ"解剖の立ち会い"についてあまり詳しく語られている印象はないですよね。
なので、今回は『解剖に立ち会いする人物とその役割について』書いていきたいと思います。
結論から書くと、解剖に立ち会う人物は以下の通りです。
主に"法医学教室"と"警察"に分かれます。
法医学教室メンバー
・執刀医
・解剖助手
・カメラ撮影担当
・検体採取担当
・口述筆記担当
警察関係者
・担当刑事
・検視官
・解剖補助警察官
・カメラ撮影担当
これはあくまでも一例なので法医学教室毎に微妙に違うとは思います。
各役割を兼務することもしばしばありますので、必ず各1人ずついるとは限りません。
また昨今は感染症の関係もあるので、解剖室に入る人間は必要最小限の人数で抑えられており、この限りではありません。
それでは、詳しくみていきましょう。
まず法医学教室のメンバーです。
【執刀医】
これは言わずもがなですね。
執刀医がいないと解剖はできません。
マスクやガウン、手袋、キャップ、保護眼鏡などの完全防備をして臓器の剖出等を行います。
※剖出:実際にご遺体から臓器を取り出すこと。
そして、責任者として解剖全体を統括します。
解剖後は、検査結果も含めて死因を判断し検案書や鑑定書を作成します。
ちなみに『執刀医は解剖時はご遺体の"右側"に立って解剖を行う』ことが多いです。
【解剖助手】
解剖助手も解剖時には不可欠です。
執刀医一人で解剖するとなると、解剖速度は半減以下になってしまいます。
特にベテラン解剖助手さんになってくると、執刀医が次にしようと思っていることを察知し先回りしてくれるので、端から見ているときっと舌を巻いてしまいますよ。
解剖助手の殆どが"臨床検査技師"の国家資格を持っています。
ですので、教室によっては、解剖後も顕微鏡組織を作ってくれたり、薬毒物検査をしてくれたりします。
そういう意味でも、解剖(を含めた法医学教室)にいなくてはならない存在ですね。
ちなみに、『解剖助手が解剖時に立つ位置はご遺体の"左側"(執刀医の向かい側)』です。
【カメラ撮影担当】
かつては"手書きの図"と"言葉による表現"のみで、ご遺体のキズ等を表していました。
しかし、カメラが導入された現代では、解剖時に撮影した写真というのが重要な証拠・所見として扱われます。
そのような重要な写真を撮影するのが、"カメラ撮影担当者"ですね。
解剖台の周りに控えて、執刀医が指示した部位や向きから写真撮影を行います。
ですので、この方は直接解剖(剖出)には参加しません。
服装も、執刀医や解剖助手のようにガチガチな完全防備まではしません。
次に書く検体採取なども同時に行ってくれることも多いです。
【検体採取担当】
解剖時には様々なサンプルを採取します。
顕微鏡組織などのための臓器の一部はもちろん、血液・尿・脳脊髄液・胃内容なども検査のために採取保存します。
そのための試験管スピッツや容器を用意し、実際にサンプルを採ってくれるのがこの方です。
サンプルを採取するタイミングは決まっていますし、前述の「写真撮影担当」も兼務していることも多いと思います。
【口述筆記担当】
執刀医はご遺体や臓器を触るため、感染症の観点等から、他のものは基本的に触れられません。
しかし、いくら執刀医だからといって、解剖の中の重要な所見を始まりから終わりまで覚えておくのは困難です。
ですので、執刀医は随時所見を言葉に出して、その所見を筆記者に書き留めてもらいます。
ただし、昨今は機械による音声認識の精度がかなり良くなってきていることもあって、執刀医がヘッドセットを付けてPCに音声入力している教室もあります。
近年の新型感染症や人手不足問題などもありますし、今後はこういった機械による音声入力が主流になってくる気が私はしています。
ここまでが法医学教室側として立ち会う人物です。
これ以外にも、学生見学があれば解剖に参加してもらいますし、可能な場合にはご遺体を診ていた臨床医の先生に立ち会ってもらうことも稀ですがあります。
引き続いて、警察関係者をみていきます。
私自身が警察関係者ではないので、少しあっさりした記載になります。
【担当刑事】
解剖となったご遺体担当の刑事さんですね。
ご遺体の身元や発見情報などを執刀医に教えてくれます。
こちらが細かいことを聞いても殆ど答えてくれるので、執刀医からみても「すごいなぁ」と毎回思います。
現場の警察官からよく電話が掛かってきていつも忙しそうです。
【検視官】
こちらは前述の"担当刑事"とはまた別です。
検視を専門とする警察官で、私は担当刑事さん以上にご遺体の詳細を把握しいている印象がありますね。(参考記事:「検視官」)
法医学研修を終えた警部以上の役職の方で、担当刑事さんよりも役職が上なことも多いかな。
司法解剖や重要な事件の解剖には必ず立ち会います。
【解剖補助警察官】
地域にもよるとは思いますが、こちらの警察官は比較的若手の方が多い印象です。
"解剖補助"と言っても、解剖助手さんのように実際にご遺体の解剖を行うわけではありません。
主にご遺体の移動や身体を支えるといった力仕事を手伝ってくれます。
なので、力のある若手警察官が選ばれているのかも知れませんね。
【カメラ撮影担当】
こちらは法医学教室と意味合いは同じです。
警察にとっても解剖時の写真は重要な証拠となりますから、我々法医学教室と共に写真を撮影します。
余談ですが、警察署によってはピントがなかなか合わないカメラを使っているところもあって、たまに可哀想になることがあります。
以上が主に実際の解剖で立ち会う警察関係者です。
この他には、重要事件などの解剖では"検察官"が直々に立ち会うことがあったり、また前述した検視官になるための法医学研修シーズンでは多くの検視官の卵が見学に来たりもしますね。
ということで、今回は『解剖に立ち会う人物』についてみてきました。
皆さんのイメージするドラマの登場人物とそこまで大きくは違わなかったのではないでしょうか。
多くの人間で解剖は成り立っているんですよね。
ただ冒頭でも少し触れましたが、昨今は新型感染症の関係もあって、解剖室に入れるのは必要最小限の人数になっています。
このような状況になる前は、重大事件の解剖などでは本当に多くの警察関係者が所狭しと入ってきたこともありました。
音声入力の話ではないですが、ふと「今後こういった分野にも情報通信機器(ICT)が広がっていくんだろうな」と思ったりします。
解剖も少しずつ進化していると言えるのかも知れません。