解剖は死因を究明するために行われます。
では実際のところ『解剖をするとどれくらいの割合で死因が特定できるのか?』
今回はこれについて書いていきたいと思います。
また"解剖"だけでなく、"死後CT検査"や"体表観察"のみの場合による死因確定率も一緒にみていきましょう。
結論から書きますと、各方法による死因確定率は...
解剖のみ:80%
死後CTのみ:30%
死後MRIのみ:50%
体表観察(検案)のみ:10%
ざっくりとこのように言われています。
詳しくみていきましょう。
前述のように【解剖による死因確定は8割】と言われています。
逆に言えば、「解剖を行っても2割近くは死因が不明」ということですね。
実務上でも、確かに高度腐敗のご遺体などでは死因不詳と言わざるを得ないこともあるので、一定数は仕方がないかも知れません。
最近増えてきた死後CT検査(非造影)では、それ単体ですと【(死後CT検査の)死因の確定率は3割】と言われます。
意外と低いと感じる人もいると思います。
しかし、外傷死(特に脳出血死)に限ると8割近くは特定できると言われています。
ただ実務上は当然脳出血以外の死因があり、CTで特定困難なものもあることから「全体としては3割に落ち着く」といった感じでしょうか。
通常の死後検査で行われる非造影CT検査に加えて、冠動脈(心臓の血管)や生検を加えると解剖に引けを取らないくらいの確定率になるという話もありますね。
【死後MRI検査の死因確定率は5割】です。
しかし、死後MRI検査は今現時点ではまだまだ法医学でも一般的ではありません。
殆どの施設で『死後検査=死後CT検査』となっています。
死後MRI検査が実施できるようになると、通常のCT検査では検出しがたい"肺塞栓・心筋梗塞・頚髄損傷"などを特定できると言われます。
そのために死後CT検査よりも死因確定率が高いのですね。
ただ前述のようにまだCTに比べるとMRIは一般的ではないので、早く法医学でも浸透することで、データ集積し知見が広がるといいなと思います。
最後が"体表観察"です。
【外見だけで死因を決めようとすると1割しか確定できない】と言われます。
熟練した法医学者でも5割を切るという話もあるくらいです。
私自身も解剖前に検案(≒体表観察)を普段行っていますが、それだけで自信を持って死因を言えることは殆どないと言っても過言ではありません。
それくらい体表を観察するだけで死因を特定するのは難しいのです。
この点は、警察関係者も重々理解しておく必要があると思います。
ちなみに、この数字からも、私個人としては『検案はあくまで明らかな外因死を除外する手段である』という認識に留まります。(わかりにくい外因死なら指摘し得ない)
死因特定のゴールドスタンダードは"解剖"とされています。
しかし、その"解剖"であっても死因の2割はわからないこともあるわけです。
そして、その"解剖から確定された死因"についても、究極的には「真の死因なのかどうか?」というのは確かめようがないわけです。
そういう意味でも、解剖を行い死因を確定する法医学者は責任を持って業務に当たらなければならないのです。