第116回医師国家試験 A問題 問57 [116A57]

116A57
2ヵ月の女児.けいれん重積のため救急車で搬入された.母親によると夜間寝ていてけいれんが始まった.救急車内で心肺停止となり心肺蘇生を試みたが,来院時は心拍の再開がなく,対光反射は消失していた.蘇生を継続したが心拍の再開がなく死亡が確認された.母子手帳によると妊娠分娩歴に異常はないが,1ヵ月健診は受診していない.顔面や体幹に新旧混在した皮下出血の散在を認めた.死後に行った頭部CTでは両側に硬膜下血腫とびまん性脳浮腫を認めた.全身X線写真では左大腿骨骨折,右上腕骨骨折を認めた.母親は外傷に心当たりはないという.
死亡に至った原因として最も考えられるのはどれか.

a 虐待
b てんかん
c 不慮の事故
d 熱性けいれん
e 細菌性髄膜炎




正答は【a】です。


[a] 正しい。「顔面や体幹の皮下出血」「両側性の硬膜下血腫・びまん性脳浮腫」「左大腿骨骨折、右上腕骨骨折」こういった外因性も疑われる病変を認めた場合はやはり虐待は疑わなければなりません。子どもにここまで重大な外傷がありながら、「母親は外傷に心当たりはない」というのも矛盾を感じます。"新旧混在した〜"という表現は臨床法医学的にも重要なサインです。

[b] 誤り。"てんかん"は「大脳神経細胞の異常興奮によって起こるけいれんが、反復して起こる慢性疾患」です。今回のけいれん重積の原因は、頭部CTなどの所見から、頭部外傷や硬膜下血腫・脳浮腫による"外傷性てんかん"が最も疑わしいですが、他にも出血や骨折等といった外傷を認めており、[a]虐待の方がより死因として適切かと思います。

[c] 誤り。[a]の解説で取り上げた、"新旧混在した皮下出血"という所見から、「一度切りの外傷」というよりは「受傷時期に時間差がある→反復性のある外傷」と判断できるため、他の情報も踏まえ、"不慮の事故"よりは"他害"を積極的に考え得る状況だと思われます。

[d] 誤り。熱性けいれんにしては、生後2ヶ月は若干早過ぎる気がします。また(単純性)熱性けいれんであれば長くても数分で頓挫することが殆どであり、予後も良好であることが多いです。また[b]の解説の通り、今回のけいれん重積は"外傷によるてんかん"が最も疑わしく、熱性けいれんは"最も考えられる"わけではありません。

[e] 誤り。あえて細菌性髄膜炎を積極的に疑う所見が問題文には記載されていません。けいれん重積についても、もちろん"細菌性髄膜炎"の可能性も0ではありませんが、状況としては"外傷によるてんかん"をより強く疑うシチュエーションであり、"最も考えられる"とは言えません。



"児童虐待"に関する臨床問題です。

「ついに"臨床法医学"が医師国家試験にも出題されたか!」と法医学界隈の一部では当時沸きましたよ。


問題としては、誰がどう読んでも「これって虐待では...?」と感じるような内容だったので、正答率もほぼ100%だったようです。

伝えたいメッセージとしては、上記のような"新旧混在した皮下出血"だったりするのでしょうが、そこまで読めなくても殆ど問題はありません。


ただ個人的には「(直接死因として)"てんかん"を死因として選ぶのは絶対的に間違いなのか?」とも思ったりします...。

もちろん「死亡に至った原因として最も考えられる」と聞かれれば、誰しも[a]を選ぶでしょうけどね。


法医実務上は、問題文のような所見だけでなく、

・出産状況
・家庭環境
・生育歴
・定期ワクチン接種歴
・児の栄養状態/成長曲線
・児の衛生状態
・態度/落ち着き具合
・受傷部位
・受傷の大きさ
・受傷推定時期
・推定成傷器
・併存疾患/持病

...などなどなど、数々の情報を加味して検討する必要があります。

医師だけでは一筋縄にはいかないのです。


昨今は様々な場面で"児童虐待"がクローズアップされています。

国試でも今後こういった出題テーマの問題が増えてくるのでしょうかね。



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