第101回医師国家試験 B問題 問11 [101B11]

101B11
医師について刑法に規定されているのはどれか.

a 守秘義務
b 無診察治療の禁止
c 処方せん交付の義務
d 異状死体の届出義務
e 診療録の記載および保存義務




正答は【a】です。


[a] 正しい。守秘義務(秘密漏示)は"刑法"に規定されています。刑法 第134条「医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。」

[b] 誤り。無診察治療の禁止は医師法に規定されています。医師法 第20条「医師は、自ら診察しないで治療をし、若しくは診断書若しくは処方せんを交付し、自ら出産に立ち会わないで出生証明書若しくは死産証書を交付し、又は自ら検案をしないで検案書を交付してはならない。」

[c] 誤り。処方せん交付の義務は"医師法"に規定されています。医師法 第22条「医師は、患者に対し治療上薬剤を調剤して投与する必要があると認めた場合には、患者又は現にその看護に当つている者に対して処方せんを交付しなければならない。」

[d] 誤り。異状死体の届出義務は"医師法"に規定されています。医師法 第21条「医師は、死体又は妊娠四月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、二十四時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。」

[e] 誤り。診療録の記載および保存義務は"医師法"に規定されています。医師法「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。(第2項) 前項の診療録であつて、病院又は診療所に勤務する医師のした診療に関するものは、その病院又は診療所の管理者において、その他の診療に関するものは、その医師において、五年間これを保存しなければならない。」



法律に関する問題です。

前年の問題と殆ど同じですね。(類似問題:100G6)

選択肢も難しいものはなく、簡単に正答できるかと思います。


ちなみに選択肢[c]に関連して、、、

治療上投薬が必要な場合、医師は処方箋を交付する義務があります。

しかし、例外(=処方箋を交付しなくてよい場合)があります。

それが「患者が不要であることを申し出た場合」と下記の8パターンです。

1. 暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
2. 処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
3. 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
4. 診断又は治療方法の決定していない場合
5. 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
6. 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
7. 覚せい剤を投与する場合
8. 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において薬剤を投与する場合


歯科診療を行う歯科医師にも同様の規定が歯科医師法にあります。

ところが、歯科医師の場合、実は下記の7パターンとなっているのです。(歯科医師法 第21条)

1. 暗示的効果を期待する場合において、処方せんを交付することがその目的の達成を妨げるおそれがある場合
2. 処方せんを交付することが診療又は疾病の予後について患者に不安を与え、その疾病の治療を困難にするおそれがある場合
3. 病状の短時間ごとの変化に即応して薬剤を投与する場合
4. 診断又は治療方法の決定していない場合
5. 治療上必要な応急の措置として薬剤を投与する場合
6. 安静を要する患者以外に薬剤の交付を受けることができる者がいない場合
7. 薬剤師が乗り組んでいない船舶内において、薬剤を投与する場合


両者を見比べみると、「覚せい剤を投与する場合」における処方箋交付の不要は医師のみに認められています。

ここでの"覚せい剤"とは、治療薬としての"ヒロポン"(メタンフェタミン)のことだと思いますが、

この薬を扱えるのは"覚醒剤施用機関"に指定されているごく一部の(医療)機関に限られています。

従って、そもそも「処方箋を出して処方する」という一般的な流れではないため、このような規定があるそうです。


ただこれの規定が何故歯科医師に認められていないのか?は私には分かりません。

適応疾患の関係で歯科医師が使用するシチュエーションがないからでしょうか。

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医師・歯科医師にも法律上の微妙な違い(検案書作成など)があり、大変興味深いですね。



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