今回は少し趣向を変えて、視点を裁判所からに変えてみましょう。
『裁判において"証拠"とはどのような基準で判断されるのか?』
例えば、DNA鑑定やポリグラフ鑑定・筆跡鑑定・声紋鑑定などの科学技術はある程度確立され、現在では「証拠能力はある」と判断されていると思います。
しかし、もしまだ一般的ではない"トンデモ科学"と一見して思われるようなデータが証拠として裁判で提出された場合はどうでしょう。
それはどのようの基準を持って証拠として認定、つまり信用性・信頼性があると判断されるのでしょうか?
その解決法のひとつに"フライ基準"と"ドーバート基準"という考え方が知られています。
これらの基準はどちらもアメリカの裁判所で示されたされたものです。
今回はこの2つの基準について書いていきたいと思います。
【フライ基準】:(証拠は)その特定分野の専門家によって一般的に承認されたことが十分に確立されていなければならない。("一般的承認"の原則)
【ドーバート基準】:その理論や技術が...
1. 検証可能かつ実証されているか?
2. ピアレビューもしくは出版されているか?
3. 誤差率や標準手法が知られているか?
4. 科学コミュニティにおいて一般的に受け入れられているか?
上記が各基準の概要です。
詳しくみていきましょう。
【フライ基準】[Frye Standard]
この"フライ基準"は後述のドーバート基準よりも先に示されました。
『(証拠は)その特定分野の専門家によって一般的に承認されたことが十分に確立されていなければならない。』
これは"一般的承認の原則"とも言われます。
要は「証拠として言いたいならちゃんと専門家達に受け入れられたものじゃないと駄目ですよ」というわけです。
この基準のメリットは、「各種検証等の精査を専門家(科学者)に丸投げできること」だと思います。
裁判の中で一から検証しようとすると、膨大な時間と労力がかかりますからね。
それを裁判外でやってもらえるのは助かります。
あと後述の"ドーバート基準"に比べると(文字面は)単純で分かりやすいですよね。
一方で問題点も挙げられます。
そもそも「"一般的"が曖昧」です。
何を以て"一般的に承認された"と言えるのかはっきりしませんよね。
また裁判外で行うにしても「結局承認にまで時間がかかる」という点も挙げられます。
新しい理論が広く浸透するにはどうしても時間がかかります。
これは仕方のないところもあります。
【ドーバート基準】[Daubert Standard] (※参考Wiki:筆跡鑑定)
そんな中に出ててきた基準が"ドーバート基準"です。
"ドーバート基準"は主に4つの項目があります。(記載によっては5つのこともあるようです)
証拠として認定してほしい理論や技術が...
1. 検証可能かつ実証されているか?
2. ピアレビューもしくは出版されているか?
3. 誤差率や標準手法が知られているか?
4. 科学コミュニティにおいて一般的に受け入れられているか?
この4項目になります。
[検証可能かつ実証されている]
→ 科学的にきちんとした根拠があって、それが実証されていてそれを他者にも検証できるか?
[ピアレビューもしくは出版されている]
→ 第三者(の科学者)によってきちんと検証・評価されているか?もしくはそれを経て論文出版されているか?
[誤差率や標準手法が知られている]
→ その理論や技術の正確性はどれくらいか分かっているか?(ひいてはその手法の限界が理解できているか?) また標準的な手順は示されているか?
[科学コミュニティにおいて一般的に受け入れられている]
→ 論文発表や学会発表によって科学者の目に触れ、なおかつそれが受け入れられているか?
4つ目は結局フライ基準に似ている概念です。
なので、単に"専門家によって一般的に承認されている"という漠然とした条件だった"フライ基準"に比べて、"ドーバート基準"ではさらに具体的な条件が追加されたと言えると思います。
これらを加えることによって「実質的に専門家集団に丸投げしていた認定を裁判所の責任の下に戻した」とも言えます。
またこの"ドーバート基準"に関連して、その理論や技術を用いて証言する専門家にも一定の条件があるとも言われます。
つまり裁判においては、誰の言うことでも証拠採用して良いわけではなく、
・資格や免許を持っているか?
・教育を受けているか?
・経験を積んでいるか?
・業績を持っているか?
などが考慮されたりするようですね。
これらの基準は修正を加えながら現在もアメリカの裁判所で採用されているそうです。
日本の裁判ではこのような基準はないようなので、その裁判毎に状況に応じたケースバイケースで裁判官が証拠能力を判断しているのだと思います。
ということで、今回は"フライ基準"と"ドーバート基準"をみてきました。
我々法医学者にとっても少々馴染みのないテーマだったかも知れません。
しかし、法学は法医学にとって切っても切れない学問ですからね。
法医学者もある程度は法学について理解しておかねばなりません。
日々勉強です。