法医学で感じる四季 -季節による死因の違い-

「季節によって死因に違いはありますか?」

このようなコメントと読者の方からたまに頂きます。

結論から言うと『あります』。

今回はこれを含め「法医学者をしていて四季を感じる事柄」について書いていきたいと思います。


季節毎の概要は以下の通りです。


【春】自殺が多い。学会(全国集会)がある。新入生や新人さんが入局してくる?

【夏】熱中症や海に関する死亡が多い。高度腐敗の遺体が増える(≒死因不詳が多い)。

【秋】学会(地方集会)がある。

【冬】心臓病や脳卒中、凍死、お風呂場での死亡が増える。腐敗の進みが遅れ、日にちが経っていてもご遺体の状態がよいことが多い。


詳しくみていきましょう。


【春】

春は自殺者が増えると言われます。(参考記事:「自殺」)

新年度・新学期といった新たな環境に身を置くことへの不安感からとも言われていますよね。

ただ実際に法医学者として"春に自殺者が多い"ことを強く感じるのか?と言われると「そう言われればそうかな...」くらいなのが正直なところではあります。

自殺者全てが解剖するために法医学教室に回ってくるわけではありませんので、その感覚の違いはあるのかも知れませんね。


また5月頃は春の学会シーズンです。(参考記事:「学会発表」)

毎年違う都道府県で行われる全国集会会場へ全国の法医学者が集まってきます。

「今ここが爆破されたら日本の死因究明制度はエライいことになるね」という冗談がまれによく聞かれますね。


そして新入生・新人さんが入ってきます。(...いれば)

新しい風が吹くと教室も風通しも良くなっていいですよね。(...いれば)

毎年この季節はワクワクします。(...いれば)



【夏】

夏はやはり"熱中症"や"海の事故"による死亡が目立ちます。

気温が上がったり日が差す時間が増えて活動的になりますが、こういった疾患や事故には気をつけなければいけませんね。


そして気温が上がると、細菌やウジ等の活動性も上がります。(参考記事:「腐敗」)

腐敗の進行も早くなりますので、夏は高度腐敗のご遺体が目に見えて多くなります。

そのため、高度腐敗による"死因不詳"も増えることになります。(参考:「腐敗遺体の解剖」)



【秋】

秋はこれといった特徴はないですかね。

初秋の熱中症や、晩秋の低体温には注意が必要です。

むしろこの季節は「こんな時期なのに!?」という先入観に囚われることなく死因究明に当たる必要があると言えるかも知れませんね。


そして秋には各地方で学会が開催されます。

こちらの学会は春先にあった全国規模のものとは違い、各地域単位で開催されます。

お互い物理的にも身近な先生方ばかりなので、より親密で興味深い学術集会(+懇親会)になります。



【冬】

冬はやはり寒さから来る死因が多くなります。

具体的には"心臓病"や"脳卒中"、"低体温症・凍死"、"お風呂での死亡"です。

冬の強い寒さだけでなく、暖かい室温との寒暖差なども血圧変動や血管収縮に悪影響を与えることは臨床医の先生にもよく知られています。

心臓病などはそもそも季節を問わず多いので明確な実感はそこまでありませんが、凍死やお風呂で亡くなる方はやはり明らかに多いですね。(参考記事:「凍死・低体温症」「風呂溺・ヒートショック」)

ただし冬は夏のような急速な腐敗進行は見られませんので、死亡してから数日、場合によっては死後数週間経っていてもお身体が殆ど傷んでないこともあります。(※温かい風呂場での死亡などは除く)

腐敗から死亡時期を推定しようとするなら、このような四季(≒気温)をきちんと考慮しなければなりません。

ちなみに年末年始であっても要請があれば解剖できるよう法医学教室では体制が敷かれています。



このように日本には四季があるわけですが、法医学(+法医学者)もその影響を受けるということですね。

今回挙げたような死因が出てきたら「もう〇〇の季節かぁ...」と、それによって季節を感じることも実際に結構あるんですよ。

ある意味変わった"職業病"でしょうか。

もしかするとこういったことは外国の法医学者は感じることのない貴重な経験なのかも知れません。