今回は"スヴェチニコフ徴候"[Svechnikov's sign]という所見について取り上げます。
この"スヴェチニコフ徴候"は、溺死の診断の際に認められる重要な所見のひとつです。
所見が認められる主座は副鼻腔、特に"蝶形骨洞"になります。
【スヴェチニコフ徴候】[Svechnikov's sign]:溺水の際に吸引した水が蝶形骨洞に貯まった状態のこと。
その名の通り、ロシアのスヴェチニコフ先生が由来となっています。
詳しくみていきましょう。
【スヴェチニコフ徴候】
まずこの徴候を説明する前に、"蝶形骨洞"というものを知らなければなりません。
"蝶形骨洞"とは副鼻腔のひとつで、鼻の奥に存在します。
ちなみに、この"蝶形骨洞の"直上には"下垂体"というホルモンを産生する器官が収まっています。
ですので、下垂体腫瘍の手術の中には、
『鼻の穴から内視鏡を挿入し、この"蝶形骨洞"を貫いて下垂体にアプローチする』
という術式もあります。(※ハーディー手術)
この"蝶形骨洞"は"蝶形骨洞口"という穴によって鼻腔と交通しています。
そのため、溺水した際に吸引した水がそこを通って蝶形骨洞の中に貯まることがあるんです。
これが"スヴェチニコフ徴候"です。
近年は死後にCT検査が撮影されることも多いですので、わざわざ解剖で確認しなくても"スヴェチニコフ徴候"自体は確認できるようにもなってきました。
ただ生前の慢性副鼻腔炎や死後腐敗の影響で、この蝶形骨洞の液体はある程度貯留し得ると言われています。
そのため、目視での性状確認や他の溺死所見と合わせて考える必要があると言えるでしょう。
ということで、今回は蝶形骨洞の"スヴェチニコフ徴候"でした。
副鼻腔自体は蝶形骨洞以外にもいくつかあるのですが、何故か溺死で言われるのはこの"蝶形骨洞"なんですよね。
理由は定かではありません...。
ちなみにこの"スヴェチニコフ徴候"は、報告されたのが比較的新しく、1965年に初めてスヴェチニコフ先生によって報告されたそうです。
法医学にはまたまだ不明の事柄や未開の分野は多くあります。
こうやって新しい徴候や法則を見つけ出す余地は近代でも十分にあるということですね。