今回のテーマは死後硬直に関係した"ニスタンの法則"[Nysten's rule]です。
死後硬直自体については、以前に詳しく書いております。
参考記事:死後硬直
実は上の記事内でも"ニスタンの法則"についてフワッと触れているんですよね。
【ニスタンの法則】[Nysten's rule/law]:『死後硬直は身体の上から下に向かって発現していく』という法則のこと。
この法則はフランスの小児科医であるピエール-ユベール ニスタン先生の名前に由来しています。
みていきましょう。
【ニスタンの法則】
死後硬直は全身の各筋肉が一斉に硬直し始めるわけではありません。
全身の筋肉が順々に硬直していきます。
強直性硬直(ex.弁慶の立ち往生)などの特殊な状況を除くと、
『一般的に死後硬直は上から下に進行していく』という性質があります。
これが"ニスタンの法則"です。
具体的には、まず最初に顎関節から死後硬直が始まります。
頭部(咬筋の他、眼瞼挙筋や眼輪筋なども含む)
↓
頚部
↓
体幹部
↓
上肢
↓
下肢
と進んでいきます。
ただ『外から確認できる死後硬直として一番最初なのが"顎関節"』というだけのことなんですよね。
実際は顎関節(咬筋)よりも先に、体内の"心筋"や"横隔膜"は硬直が始まります。(死後30分程度〜)
結局これらは体内の筋肉なので解剖以外では確認できないんですけど。
ちなみに、死後硬直の確認をする際には関節を他動的に動かすのですが、これは直接物理的に関節が固まっているわけでは当然ありません。
硬直するのはあくまでも"筋肉"です。
関節は、骨と骨との繋ぎ目ですよね。
その繋ぎ目をまたぎ、両骨を橋渡ししている筋肉が収縮することで関節は動きます。
なので、この筋肉が固まってしまうことで死後硬直が起きるわけですね。
「何故このような上から下へ死後硬直が進む現象が起きるのか?」については調べてもはっきりしませんでした。
おそらく最初は経験則から言われ始めたのだと思うのですが...。
確かにこの法則が当てはまらないケースも多々ありますので、何か論理的な説明は可能なのだとは思います。
以上、"ニスタンの法則"でした。
この死後硬直の性質自体は知っている人も多かったのではないでしょうか。
それくらい有名な法則なのに、意外と調べても理由や機序がはっきりしないものも法医学では他にもちらほら散見されます。
これは『昔から経験則的に知られている知識が法医学では多いから』と思ったりしますが、そういった経験則的知識であってもきちんと機序が説明できる法医学者でありたいですね。