強直性硬直 [Cadaveric spasm]

今回は"強直性硬直"について書きます。

死後硬直は死後数時間後に顎関節から始まるのが典型的です。(参考記事:「死後硬直」)

つまり死直後〜早くても死後1時間弱の間は筋肉は弛緩していることが殆どです。

ところが、この死直後に弛緩が起きないケースがあるとされており、この現象を"強直性硬直"と呼びます。



強直性硬直[cadaveric spasm/instantaneous rigor/cataleptic spasm]:筋弛緩期を経ることなく遺体の死後硬直が維持される現象。"即時性硬直"とも呼ばれる。

例. "弁慶の立ち往生"、"木口小平のラッパ"など。


詳しくみていきましょう。



冒頭に書いたように、通常死後には脳からの信号が止まるため"筋弛緩"が起きます。

そのため死直後は身体はぐったりとした力の抜けた状態になるわけですね。

そして、数時間後〜(早くても30分超)で死後硬直が発現し、数日間かけて徐々と強くなっていき、その後再度段々と硬直が弛緩していきます。


この現象は"ATPの消費"やその後の"分解"で説明されます。(※ざっくりと、ATPが消費されると弛緩が起きない)

この際、『ATPがより大量に消費される状況ではすぐに硬直が始まる→弛緩期が短縮する』と言われます。

これが"強直性硬直"です。

具体的には、強度な運動後、痙攣後、高体温時、そして時には"極度の興奮や恐怖"といった極限の感情によって"緊張性硬直"は引き起こされるとも言われています。


日本で有名な例は、前述の"弁慶の立ち往生"や"木口小平のラッパ"といったケースです。

その他、症例としては「溺水時に草をつかんでいる」「拳銃自殺で拳銃を掴んだまま亡くなっている」などが知られています。


ただし、この"強直性硬直"については海外を中心に批判もあります。

『"強直性硬直"は単に死亡時刻を誤っているだけである。(通常の死後硬直を見ているだけ)』
『ATPが消費され得る強度な運動や痙攣後は説明できるが、"極限の感情による強直性硬直"はそれで説明できない。』

これらの説明は言わば"悪魔の証明"ですから、なかなか難しいところですね。


従って、この"強直性硬直"を判断は慎重である必要があります。

"強直性硬直"と判断するということは、つまり『その体勢のまま亡くなった』という判断されるわけです。

そうなると、拳銃を持ったまま亡くなっていたら「拳銃自殺だろう」と安易に判断されてしまいかねないわけです。


もちろんご遺体の状態だけで自殺が判断されるわけではありませんが、場合によっては自殺の線で話が進んでしまうことも十分考えられます。

ですが、先ほど書いたように、この"強直性硬直"には未だ批判もあるため、もしかすると後で他人によって掴まされた可能性もあるわけですね。

だからこそ、この"強直性硬直"を安易に判断してしまうのは危険なのです。

ひょっとしたら、弁慶さんや木口小平さんも周りの想像による後付けだったかも知れません。


"強直性硬直"...ここでも"様々な状況を加味して"判断することが必要になるのですね。

ドラマの主人公のように一刀両断に言える場面というのは、現実にはそうそうないのです。