法医実務では、白骨を鑑定する機会もしばしばあります。
参考記事:白骨・白骨化
免許証や服装、その他身元特定に繋がるような試料が残されていれば、ある程度スムーズに事が運びます。
しかし、それらがない場合、身元を特定するものが何もない場合、骨から得られた個人を推定できる所見が頼りとなってきます。
とは言え、「どこの誰か?」レベルまで特定することは実際は難しいことが多いです。(骨折用プレートやペースメーカーなどのシリアル番号などがあれば別ですが)
実際のところは、性別・年齢、そして時に人種レベルがせいぜいなところかも知れません。
今回はその中でも"性別"とおまけの"人種"に関わる骨所見をご紹介したいと思います。
性別推定で特徴的な骨
・頭蓋骨
・骨盤
人種推定で特徴的な所見
・歯牙、シャベル状切歯
詳しくみていきましょう。
【頭蓋骨での性別判定】
・"頭頂部"が男性は隆起、女性は平坦
・"頬骨弓"が男性は太く、女性は細い
・"眉弓隆起"が男性は隆起、女性は平坦
・"前額部"が男性は斜め、女性は鉛直 → ※女性は【"オルトメトピカ"(+)】と表現される。
・"側頭筋付着部"が男性は発達し、女性は未熟
・"後頭隆起"が男性は突出、女性はなだらか
・"乳様突起"が男性は大きく、女性は小さい
・"下顎角"が男性は張っていて、女性は弱い
・"茎状突起"が男性は太く、女性は細い
・"下顎体下縁"は男性で鋭く、女性は鈍い
【骨盤での性別判定】
・"骨盤上口"が男性は狭く、女性は広い
・"骨盤腔"が男性は狭く、女性は広い
・"恥骨下角"が男性は鋭く、女性は鈍い
・"仙骨上縁"が左右腸骨稜を結ぶ線より男性は遠く、女性は近い
・"大坐骨切痕"が男性は鋭く深く、女性は鈍く浅い
・"寛骨臼"が男性は比較的側方向きで、女性は比較的前方向き
・"坐骨結節"が男性は近く、女性は離れている
頭蓋骨も骨盤も、男性は全体的にがっしりさが強く、女性は弱いイメージですね。
骨盤では、女性は出産に適した構造となっていることから、性差がある程度はっきりしています。
【歯牙からみる人種】
おまけ程度になりますが、歯牙について人種ごとの特徴を1つだけ取り上げたいと思います。
それが"歯列弓"です。
コーカソイド:V字型
ネグロイド:四角型
モンゴロイド:円弧型
教科書的にはこのように並ぶとされています。
また黄色人種の切歯(前歯)に特徴があって、その名も"シャベル状切歯"です。
上は歯を裏側から見ている感じの画像です。
前歯裏面の中央が凹んでいて、これの前歯が"シャベル"に似ていることから"シャベル状切歯"と言われます。
確かにアジア人に多いです。
ただ日本では海外の方のご遺体をみる機会が(歯は特に)少ないので、私自身は見比べたことはありません。
ということで、今回は"骨"についてみてきました。
上記のポイントはあくまでも目安に過ぎません。
男性なのに眉弓隆起が弱い人もいれば、女性なのに大坐骨切痕が鋭めの人もいます。
「あくまでこういう傾向にある」というだけですね。
2つを男女別の骨を見比べると『あちらが男性、そちらが女性』というのはおそらく誰でも判断できます。
しかし、実務はそんな単純ではありません。
鑑定にやってくる骨は基本的に一人分しかないのです。
法医実務では"男女の見比べ"を行うのではなく"男女の推定"を行わなければならないのです。
2つの骨ががやって来た場合も、それが男1人・女1人の組み合わせとは限りません。
男2人かも知れませんし、女2人かも知れないわけですよ。
そういう意味で、単体の頭蓋骨や骨盤を性別鑑定するのはとても難しいのです。
法人類学者の先生はすごいですね。
今はDNA型を確認すれば男性か?女性か?というのは分かるので助かります。
骨試料の性別鑑定に関しては、こういったある意味で法医学者の主観的な鑑定は、今後DNA型鑑定に取って代わっていくでしょう。(というかもう取って代わられたか?)
とは言え、法医学において重要な知識であることは変わりません。