今回も引き続き永久死体のひとつである"白骨"について書きます。
白骨の鑑定は我々の法医業務の中でもわりと一定のウェイトを占めるもので、実務上は大変重要なテーマです。
白骨化するまでの時間、白骨における性別判定、白骨からの身長推定などをに触れていきたいと思います。
白骨とは『骨だけとなった状態』のことを言います。
もう少し細かく書くと『軟部組織が消失し、骨や歯・爪・毛髪などの硬組織だけになった状態』とでも言いましょうか。
白骨化するということは、皮膚や臓器などの軟部組織が消失することでもあります。
軟部組織は腐敗や動物の損壊によって消失していきます。
従って、白骨化するまでの期間は環境条件によって様々であり、決して一律ではありません。
目安としての『白骨化するまでの期間』は下記の通りです。
地上:半年〜1年
水中:1〜2年
土中:3〜4年
完全白骨化には5年以上かかり、それ以上では骨が崩壊していきます。
ただし前述の通り、腐敗進行の早い夏は3〜4ヶ月で白骨化することもありますし、死体を損壊をする虫や動物が多くいる環境では数日〜数週間以内に白骨化が完了することもあります。
それでは続いて、白骨を目の前にした時に何が分かるでしょうか?
骨が折れていたら骨折ですね。(生前のものか?死後のものか?の判断はまた難しい話なのですが...)
あとは先ほど書いたばかりの"白骨の状態・程度"から『いつ頃からこの環境に置かれていたか?』というのも分かるかも知れません。
その他にとても法医学上で重要となるのが"性別" "年齢" "身長"です。
白骨周囲に免許証や、服装、所持品などがあればそこから判断することは難しくないわけですが、骨だけが見つかった時に個人特定のためにこれらが必要となってきます。
後述する骨があればよいですが、実際の現場では一部が欠損した状態の骨が見つかることも少なくありません。
身長も全身の骨があれば簡単に分かりますが、そうでなければ、今ある骨から身長を推定しなければなりません。
そうして個人特定の範囲をより狭めていくわけです。
つまり何も情報がない人を探すより、「女性で、50歳以上で、150cmくらいの人物」といった方が探しやすいですよね。
これら各項目を推定するためにはいろいろな手法があります。
今回は中でも有名な手法をご紹介したいと思います。
具体的な内容までは書き切れないことをご了承ください。
性別推定で重要となるのは"骨盤骨"です。(その他頭蓋骨なども性差が大きいです)
女性の骨というのは男性のものよりも全般的に小さく細く華奢なのですが、骨盤だけは違います。大きいです。
これは女性は妊娠・出産するからです。
なので、産道となる骨盤骨によって形成される骨盤腔が大きいんです。
その他にも『恥骨下角のなす角度が鈍角である』などたくさんあるんですが、今回は取り上げません。
年齢を推定するには『歯のすり減り具合をみる』のが最も有名ですね。
つまり年齢を経るにつれて歯がすり減ってきますので、その程度から年齢を逆算するというものです。
この分野は法医歯学者の先生方がご専門で詳しいところですかね。
最後、身長推定では主に四肢の骨を使います。
具体的には、上腕骨・橈尺骨・大腿骨・脛腓骨等ですね。
統計的にこれら四肢の骨の長さと身長を満たす計算式がいくつかあり、それらを使って推定身長を出していきます。
先ほど書いたように、これ以外にも各項目を推定する方法や手段はたくさんあります。
1つの手法の結果のみを鵜呑みにしてはいけません。
上記に取り上げた方法以外の方法でも確認し、矛盾しないか?等もきちんと加味する必要があります。
近年では『この人だ』というめぼしい人物がいればDNA鑑定で個人を特定することも増えてきました。(※DNA鑑定についてはまた改めて取り上げます)
とはいえ、そういっためぼしい人物すら出てきていない場合は、こういった古典的な白骨鑑定がとても有用です。
最近は死後CTも増えてきていますし、今後そういった方面からも新しい発見や発展が期待される分野でもあります。
これからの法医学者にはより必須となってくる知識と言えるでしょう。