脳死・脳幹死、法的脳死判定

さて前回に続き『脳死』について書いていきたいと思います。

これらを読んで"脳死"と"植物状態"の違い、そして"脳死判定"の詳細が理解できるようになれればと思います。


簡単におさらいをしますと、

植物状態は『脳幹機能が保たれており自発呼吸が認められる』でした。

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これに比べ、

脳死では『脳幹の機能の含め全脳機能が(不可逆的・永久的に)障害されている状態』

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つまり人工呼吸器が必須となる状態ということでした。



脳幹は呼吸機能をはじめとした心肺機能を中枢を担う部位です。

この『脳幹の不可逆的な機能停止(="脳幹死")が脳死である』という考え方もあるくらいです。
(※今回取り上げるいわゆる"脳死"は『脳幹だけでなく大脳半球も含め全ての脳機能の停止』ということなので、"脳幹死"は少し狭い範囲を指す言葉と言えます)

だからこそ、この脳幹機能が保たれていれば心肺機能は(ある程度)保たれますので、植物状態(遷延性意識障害)というカテゴリで脳死とは区分されるわけです。

ある本には『脳死では約1週間ほどで心停止に至る』とされますが、『植物状態では数年〜数十年で心停止に至る』と記載されています。

この違いは脳幹機能が保たれているか否か?の違いから来ています。


また脳死は「全ての脳細胞が死滅している」わけではありません。

『脳機能が障害されている』という点も細かいですが重要かもしれません。



"脳死"というのは"死"という語句がついてしまっていますが、亡くなったと判断されるのはあくまで臓器移植が前提とされる状況においてのみです。

なので臓器移植の脳死判定がなされるまでは"脳死状態"というのが正しい気もします。


脳死であると判断されるには"法的脳死判定"を経る必要があります。

"法的"であって"医学的"とは別の視点です。

医学的には総合的に脳死状態と考えられても、この"法的"脳死判定という決められた基準をクリアできないと『脳死』とは判断できないんですね。(かつては"臨床的脳死"という考え方もありました)


この基準は文字に起こすと乱雑になるので、画像で載せます。(※日本脳死移植ネットワークより)


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2人以上の脳死判定医が時間をおいて2回判断し、

それが一致した場合、

2回目の脳死判定終了時刻を死亡時刻とします。

※脳死判定医:脳神経外科医、脳神経内科医(神経内科医)、救急医、麻酔・蘇生・集中治療医または小児科医であって、それぞれの学会専門医または学会認定医の資格を持ち、かつ脳死判定に関して豊富な経験を有し、しかも脳移植にかかわらない医師


余談になりますが、残念ながらここに法医学者は含まれていません...。

個人的には、我々もこういった分野に貢献できれば、もっと臨床との距離が縮まる気がするんですが、この先には移植がありますし、やはり臨床医学の範疇なのでしょうね。



三徴候説の視点からみると、心臓以外の機能は停止しています。

ある意味"非心臓死"といっていいのかもしれません。


とはいえ脳の機能が本当に失われているか?はとても大切なので、当然対光反射消失の確認だけではありません。

対光反射以外にも、刺激反応テスト+角膜反射・網様脊髄反射・眼球頭反射・前庭反射・咽頭反射・咳反射+脳波検査が必要です。


肺は脳からの信号で筋肉が動き呼吸していますので、脳機能が失われている状態では呼吸機能も停止しています。

これを調べるのが"無呼吸テスト"です。

人工呼吸を止めて、自発呼吸が本当にないか?を調べます。

人工呼吸を止めると、通常なら血中の二酸化炭素が増加し、脳が「呼吸運動をしなさい」という命令を出します。

それでも自発呼吸が出ない→脳機能が失われていると判断するというわけです。

人工呼吸器のサポートをOFFにするので、もし脳死状態でなければ危険な行為でもあるため、この検査は各判定の1番最後に行われます。


それでは心臓はどうなのか?と言いますと、心機能は保たれています。

脳機能に関わらず、実は心臓は自発的に動くことができます。

もちろん脳からの信号によって心臓の動きは調整されます。

例えば緊張すればドキドキしますし、リラックスしている時はゆったりしてますよね。

脳死状態ではそういった調節はなくなりますが、心臓の動きは止まっていません。

心臓移植でも、ドナーからの移植によって心臓は動きは還ってきますが、特に移植後早期では自律神経の支配が絶たれているため、運動は控えた方がいい(運動しても心拍数が上がらないため)とかありますよね。



その他、脳死判定に至る前提条件として、

・昏睡状態で無呼吸である
・本人の拒否の意思表示がない
・有効な意思表示が可能
・虐待がない
・原疾患が確実に診断されている
・適切な治療を行っても回復しない

・急性薬物中毒でない
・代謝内分泌障害でない
→これらの症状は脳死状態に似ており不適とされる
・低体温でない

などがあります。



このように"死"というのはきちんと考えるとその境界はかなり複雑で難しいと感じます。

『明らかに亡くなっている』
『明らかに生きている』

これらの判断は大きな問題にはなりませんが、その境界にこそ専門性がありスペシャリティが求められると言えるのかもしれませんね。