植物状態 (失外套症候群と無動性無言)

以前書いた記事の中に、『脳死と植物状態』にちらっと触れたものがありました。

なので今回はその両者の違いについて記載していきたいと思います。


ちなみにこのブログでも慣習的に"植物状態"と書いていきますが、正式には"遷延性意識障害"と言います。

TPOに応じて"遷延性意識障害"という言葉を使用する方が適する場も多いかと思いますのでご留意ください。


さて、まずそもそも両者は違います。

ざっくりと書きますと、

植物状態:(一部ないし全部の)大脳半球の機能停止、脳幹機能は維持されている。
→脳幹機能である呼吸中枢や自律神経は保たれているため、自発呼吸も認める。

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脳死:大脳半球機能に加え、脳幹機能も停止している。
→脳幹機能も失われているため、自発呼吸はなく、人工呼吸器が必要となる。

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となります。


植物状態は、前述の通り障害を受けた範囲が大脳半球に留まります。

交通事故による頭部受傷等で起きる多いとされます。


大脳半球は発語や運動・感覚、視覚、聴覚等、様々な機能をになっており、障害部位によっても残存機能は様々ですが、1970年代には日本脳外科学会が以下のような定義を出しております。

①自力で動けない
②発声は可能で あるが意味ある発語はできない
⑥尿便失禁状態
③簡単な命令には従うこともあるが、意思疎通は不可能
④目で物を追うこともあるが、認識はしていない
⑤自力で食事が出来ない

①〜⑥状態が3ヶ月以上続く者を植物状態と判断する。


脳幹部の機能は保たれますので、自発呼吸・対光反射・睡眠サイクル・外部刺激に対する反応・嚥下機能・眼球運動は保たれ、まれに意識障害が回復することもあり、この点についても脳死とは違っています。


さらにこの植物状態に含まれる症候群に有名なものが2つあります。

『失外套症候群(しつがいとうしょうこうぐん)』と『無動性無言』です。

両者は、無言・無動、睡眠サイクルあり、嚥下機能は共通しています。

メインの違いは『追視・注視があるかどうか』です。


失外套症候群:大脳半球のうち大脳皮質(脳の外側)が広範に障害され、汎失認・汎失行の状態と言われます。しばしば筋緊張が亢進し(除皮質姿勢)、追視・注視はありません。原因としては頭部外傷の他、脳卒中、脳炎、CO中毒、低酸素脳症などが挙げられます。

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無動性無言症:間脳から上部脳幹にわたる網様体(覚醒等を司る)の部分的な傷害が原因です。前頭部内側部帯状回の両側性病変、水頭症、脳底動脈血栓症などの脳卒中、脳腫瘍、脳炎などが原因疾患です。こちらは原則除皮質姿勢はなく、追視・注視は認めます。網様体賦活系が障害されますので、傾眠傾向であると言われます。

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ちなみに、この2つと似たものに『閉じ込め症候群』というのがありますが、こちらは随意運動が障害され通常の意思表示ができないのであって、意識自体は清明ですので、そもそも植物状態には当てはまらず、全く別の病態として区別されます。

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本当は"脳死"についても一緒に書こうと思っていたのですが、少し長くなりましたので、それはまた次回にします。