医学において、重要な所見や病気の写真をまとめた画像集のことを"アトラス"と呼びます。
"アトラス"は"教科書"とは違い、用語の説明などは最低限しか書かれていません。
「そこから新たに知識を得る」というよりは、「すでにある知識を強固にする」ための学習ツールという感じでしょうか。
法医学では"肉眼的な所見"がとても重要であり、それを多数収めた"アトラス"は強力な学習ツールと言えます。
今回はその"法医学アトラス・画像集"をご紹介したいと思います。(参考記事:「法医学の教科書」)
とは言え、実質的に今現在市販されている法医学アトラスはおそらく1種類しかありません。
【アトラス臨床法医学】です。
(監修:佐藤喜宣、編集:岩原香織・都築民幸 @中外医学社:リンク)
中身をお見せすることは当然できませんが、アトラス全般の話も含め書いていきます。
法医学においては、"眼で見た所見"というのものは解剖・死因判断においてかなり大きな比重を占めています。
もちろん顕微鏡などで細かく観察も行うのですが、やはりある程度時間はかかりますし、全体を俯瞰的に診て判断しなければいけませんので、顕微鏡検査だけで死因が決まるわけではありません。
ですので、解剖時にすぐ所見が得られ、かつ大局が把握できる"肉眼所見"というのは病理学においてのそれよりも重要視されている印象はあります。
今はカメラの性能も上がっていますし、毎回の解剖でも写真撮影は必ず行っています。
後になって、文字情報だけで振り返るのはさすがに現代は厳しいですね。
あまり写真を撮り過ぎると保存容量の問題も出てきます...。
それでも、ご遺体は火葬してしまうと肉体は無くなってしまいますので、解剖後の再鑑定などのために、採取試料とともに撮影写真は現代の法医解剖において必須のツールです。
従って、それら写真を集めたアトラスは、法医学の学習の上でもかなり有用な教材と言えます。
法医学は「百聞は一見にしかず」の傾向が極めて強い学問です。
文字だけ追って学んでもそれは実際のところほとんど使い物にはならない知識なんです。
やっぱり実際にみて学んでいくということが法医学では絶対的に必要となってくると思います。
ところが、現在発売されているアトラスは現時点でおそらく上記の【アトラス臨床法医学】のみというのが実際なんですよね...。
このアトラス自体も中身はかなりコンパクトで「必要最低限」という印象は否めません。("エンバーミング"について触れている点はさすがです。)
かつてはそもそも教科書にも画像が豊富に載っていたりしました。
でも昨今はプライバシーの関係か(カラー)ページ数の削減の関係か、掲載画像は必要最低限に抑えられ、他の法医学アトラスも殆どが絶版になってしまっています。
そもそも今となってはそれも古い写真は解像度も悪いですし、ここいらで改めて網羅的な法医学アトラスが発売になってほしいところなのですがなかなかそうもいかないようです...。
昨今は画像がネットですぐに広がってしまうというのも一因かも知れませんね。。
なので現状は結局やはり『解剖を実際にみて学ぶこと』が1番の学習になってしまうんですよね。
余談にはなりますが、だからこそ『若手の間はある程度解剖の多い法医学教室で勉強する方が良い』と言う先生もいるんでしょう。(参考記事:「各法医学教室の違い」)
仮に何の制約もないのであれば、本来このブログでも実際の解剖写真を載せた方が読む人にとっても理解がしやすいと思ったりはします。
しかし、それは絶対に許されませんし、今後も100%行いませんのでそこは安心してくださいね。
法医学というのは「法医学者自身にとっても、この世の中では学びにくい学問である」のかも知れません。