2021年12月28日発売 [1800円+税] 地人書館 (出版社URL)
『野生動物の法獣医学 もの言わぬ死体の叫び』 (著:浅川満彦)
酪農学園大学野生動物医学センター(WAMC)には次々と、野生動物の死体が運び込まれる。公園で大量死したカラス、長期間放置され内臓がドロドロに溶けたスズメ、時には事件性が疑われる訳ありのものまで。こうした野生動物の死体は、法的には「生ごみ」である。しかし大量死には感染症や中毒死の可能性が示唆され、死にざまによっては動物虐待が疑われる。
人獣共通感染症をはじめ、動物が関係する案件が増加している昨今、死因を解明することの重要性も増している。様々な動物で「剖検」の記録を積み重ねてきた著者は、獣医学においても、人間社会の法医学に相当する分野が必要だと主張する。(※出版社サイトより)
この本を読み終えたので、今回はレビューを書いていきたいと思います。
世間にはまだ馴染みの薄い"法獣医学"について、広くそしてなおかつ深く書かれた大変重厚な1冊でした。
表紙を見ると一見して「ノベル本か?」と思ってしまいますが、そうではなくこの本は"随筆(エッセイ)"です。
大きさも単行本サイズではありますが、比較的文字はみっちりの全256ページなので読み応えもあります。
幅広いテーマに触れられており、そういう意味では"イッキ読み"というより「1章ずつじっくりと腰を据えて読む」タイプの本かも知れません。
獣医学部の方ならイッキ読みも可か!?
内容は...私にとっては知らないことだらけでとても新鮮でした。
同じ"法"や"医学"という言葉が付くのに「これほど違うものか!?」と。
本書は法獣医学の中でも特に「"野生動物"の法獣医学」を中心に描いている本です。
著者が所属するセンターの運用状況のこともあって、中でも"鳥類"に関する記載が多かったですかね。
・ガラス窓に衝突死する鳥
・風力発電機のバードストライク
・油流出による海鳥の低体温症
など、ヒトでいう"外因死"に関する記載が印象的でした。
獣医学ではやはり病死よりも外因死の方が注目されているのでしょうかね。
世間的にも割とイメージしやすい"動物虐待(≒シェルターメディスン)"については、この本ではそれほど触れられてはいません。
その他、法医学との違いとして私が"法獣医学"に感じたのは、
・多種多様な動物を範疇としている
・解剖後に標本にすることがある
・動物の死体は"遺体"とは呼ばない
こういった点も読んでいて興味深かったです。
逆に法医学と共通するところもあって、
・ワンヘルス(≒横断的な)アプローチの重要性
・死因解析には地道な消去法が多い
・(法獣医学も)最終的には人々の利益になる
などは法医学者である私も共感しましたよ。
また著者は、法医学における溺死の死後診断で一般的な"プランクトン検査"に著者は興味がおありのようですので、(参考記事:プランクトン検査)
是非「獣医学におけるプランクトン検査の有効性」を今後是非調べてみていただきたいですね!(私も興味がある...)
私が法医実務の中で"獣医学"と関わるのは『白骨の人獣鑑別』くらいです。
なので、この本を通して"法獣医学"という新たな世界を知ることができて大変勉強になりました。
ただ当然私は獣医学に造詣があるわけではありません。
だからこそ所々難しい言葉(動物名など)が出てきてもパッとイメージできずに、ついGoogle検索しちゃった箇所も所々ありましたかね。
あとせっかくの挿入画像がややピンボケしていたり("あえて"なのかな?)、そもそも白黒印刷なのでカラーではないのが歯がゆかったです。
ということで、今回は"法獣医学"について書かれた『野生動物の法獣医学: もの言わぬ死体の叫び』をレビューしました。
まさに開拓中の分野であり、"法獣医学"に関する数少ない関連書籍と言えるでしょう。
"法獣医学"に興味のある方は是非とも一度読んでみてほしいです!