1分間に約1Lの血液が流入し、そのうち100mLの血漿(血液の液体成分)を糸球体で濾過しながら毎分1mLの尿を作っている腎臓。
そんな大事な腎臓の"成れの果て"とも言える"腎硬化症"について、今回は取り上げたいと思います。
【腎硬化症】:腎臓が高血圧に曝されることによって細動脈に動脈硬化を来して起こる腎障害のこと。近年は糖尿病性腎症に次いで、透析新規導入の原疾患の第2位である。
※上記の腎硬化症を"良性腎硬化症"と呼び、拡張期血圧が 120~130 mmHg以上のより重度高血圧で認められ、急性増悪する"悪性腎硬化症"と区別することもある。
詳しく見ていきましょう。
前述の通り、腎硬化症は"腎臓の動脈硬化"が原因となって起こる腎障害のことです。
しかし、ここでの"動脈硬化"の動脈は、腎臓に入る太い動脈のことではありません。
腎臓の実質内部に存在する細動脈(輸入細動脈など)が病態の主座となります。
この細動脈に動脈硬化が起き、内腔が狭窄していくことで、その先の腎細胞に虚血が起きて死滅していきます。
ここでは書きませんが、顕微鏡でみると、様々な病理学的な所見が確認されます。
しかし、この"腎硬化症"、法医学でも解剖所見としてしばしば認められるのです。
※Wikimedia Commonsより
このように、腎臓の表面がザラザラした細顆粒状を呈すのです。
この理由は「硬化性虚血が起きた部分は腎細胞が消失し、残った腎細胞は逆に代償性に過剰に働くため肥大し、全体で見ると凹凸が出来る」と言われています。
↑引用画像は比較的軽度で、これが更に進行するともっと凹凸が目立ち、最終的には萎縮し硬くなります。
そういう意味で、「腎硬化症は腎障害の"成れの果て"」と言えるのです。
では、この腎硬化症の法医学意義は何なのでしょうか?
それは「高血圧の存在を示すから」だと私は考えています。
解剖で生前の高血圧を証明するのって案外難しかったりするんですよ。
最もオーソドックスなのは、やはり心臓の"左室肥大"だと思います。
※Wikimedia Commonsより
しかし、左室肥大の原因は高血圧だけではありませんよね。
なので、その左室肥大所見を除くと、、、意外と高血圧の証明って難しくて、法医学者としては困ってしまうのです...。
そこでこの腎硬化症が役に立ちます。
例えば、脳出血で亡くなった方がいて、左室肥大はあると。
ただしそれだけでは決め手に欠ける...と思ったら、腎硬化症所見があった。
それならば、脳出血の背景にはやっぱり高血圧もあったのかな!?
...となるわけですね。
このように、腎硬化症はもちろんその病気があること自体も大事なのですが、同じくらい「高血圧があった」という証明としても重要な意義があるのです。
以上、今回は"腎硬化症"を取り上げました。
解剖所見(や肉眼病理)というは、
「知っているか?どうか?」
「経験したことがあるか?どうか?」
がすごく重要になること多いです。
是非とも若いうちから多くの経験をしてくださいね。