今回は法医学でもしばしば見かける"老人性紫斑"について書いていこうと思います。
これは文字通り"高齢者"によく認められる皮膚所見です。
"老人性紫斑"、これ自体は死に至るような重篤な疾病ではありません。
しかし、時に"皮下出血"と見間違う?ことがあるため、検案の際には注意が必要になってきます。
老人性紫斑 [senile purpura]:高齢者に認めやすい紫斑(≒皮下出血、いわゆる"痣")のこと。日光の影響などの加齢に伴って血管壁が脆弱になることで軽微な打撲で出血が起こる。良性疾患。
詳しくみていきましょう。
"老人性紫斑"の説明自体は上記の通りです。
日々日光を浴びるなどの影響で、年齢を経るにつれ血管の壁は弱くなります。
そのため、高齢者になるとちょっとぶつけただけで結構派手な"痣"が出来てしまいます。
この"痣"のことを"老人性紫斑"と呼ぶわけですね。
当然ぶつけやすい部位に出来るので、主に腕や足などの四肢に認められます。
医療従事者なら、高齢者の点滴が漏れた際などに見たことがあるかも知れません。
また高齢者の中には血をさらさらにする薬を飲んでいる方も多くいらっしゃるので、そういう場合はより出来やすくなります。
前述のように、これ自体は死因になるほど重篤な出血になることはありません。
それでは、何故"老人性紫斑"が重要なのか?
それは、、、『"(通常の)皮下出血"との鑑別が難しいから』です。
(※ここでの"通常"とは、"一般的な外力による"という意)
"老人性紫斑"も"皮下出血"も、どちらも血管外出血による"紫斑"なわけです。
そもそもの"血管壁の脆弱化"があるか?ないか?の違いだけであって、機序についても「どちらも外力によって血管壁が破綻して出血が出来る」という点は一緒なんです。
そのため、高齢者の痣を見つけた場合は『それが意味のある皮下出血なのか?』というのに注意しなければならないのです。
特に最近は"高齢者虐待"も問題になってきていますから、より注意深く観察する必要があります。
"老人性紫斑"に関しては、しばしば警察官も「これは虐待ですかね?」と不安げに聞いてきたりするくらい難しいです。
初めて見た人も結構な派手さにびっくりするかも知れません。
それでも詳しく話を聞いてみると、
「軽くドアにぶつけただけ」
「少し掻いただけ」
なんてこともあります。
両者の鑑別は、究極的には死後画像や解剖を行って他の外傷を除外して判断する必要があります。
ですが、あえて"老人性紫斑"の特徴を言うなら、
・限局的な出血であることが多い
・辺縁がモコモコしている
・骨折は殆ど伴わない
みたいな感じでしょうか。
一概には言えませんけどね。
ということで、今回は"老人性紫斑"を取り上げました。
この"老人性紫斑"のように『発生機序は同じでもそのバックグラウンドが違う』という類いは、突き詰めると判断は極めて難しいです。
法医学者によっては「そんなの"老人性紫斑"でしょ」と一蹴りできるものであっても、疑い深い私は「本当にそうなのか?」と思ったりすることもあり...。
法医学は私にとって杞憂の毎日です、、、が、杞憂な日々の方が良いのかも知れませんね。