今回はしばしば解剖でも認められる肝臓の形態異常である"絞扼肝"について書いていきたいと思います。
形態的異常とは言え、"絞扼肝"に臨床的意義(法医学上も)はほぼありません。
言ってしまえば、「単に肝臓に溝が認められるだけ」というものですので、そこはご安心ください。
絞扼肝・コルセット肝 [corset liver]:肝表面に縦に走る溝が認められた肝臓のこと。肝臓右葉S8の上面に1-3本程度認められることが多い。
発生機序は「東洋人での帯」や「西洋人でのコルセット」などの圧迫によって出来ると言われており、このためこの溝を"東洋溝"と呼ぶこともある。
詳しくみていきましょう。
前述のように、この"絞扼肝"は『肝臓が帯やコルセットなどで締め付けられることによって出来る』と言われています。
頻度としてはおよそ5-10%ほどだとも言われており、そこまで多くありません。
腹部の締め付けによって、肝臓が周りから圧迫されて「皺が寄る」といいますか、溝が出来てしまうわけですね。
この溝が矢状方向に出来るため"矢状溝"と呼んだり、帯をする東洋人に多いことから"東洋溝"と呼んだりします。
しかし、決して帯やコルセットとしていない人にも認められることがあります。
そのため、この発生機序には胸腹部の圧迫以外にも諸説言われています。
・肝臓の発生過程における分葉異常 (いわゆる"肝奇形")
・横隔膜の牽引
・慢性閉塞性肺疾患(COPD)による過膨張肺の圧迫
・肝周囲の炎症による引きつれ
このような説ですね。
1番上の奇形説は「若年では殆ど"絞扼肝"が認められないこと」から否定的な意見もあります。
とは言え、この"絞扼肝"が臨床上で問題となることは殆どないと思います。
あえて言うなら、
「外傷症例などで"絞扼肝"を肝損傷・肝破裂と見間違う可能性がある」
「"矢状溝"に腹水が貯まったら、肝腫瘍と見間違える可能性がある」
などでしょうか...。
ただし、やや専門的にはなりますが、この"絞扼肝"は臨床で時に問題となることがある"リーデル葉"[Riedel's lobe]とは別物なのでその点は注意です。
法医学上でも、『"絞扼肝"があるから、この人の職業は...日常的に帯を着ける舞妓さんだ!』みたいなチープな推理小説は書けそうですが、、、
前述のように"絞扼肝"ではあっても帯やコルセットと何の関係のないご遺体も多く経験しますので、実務上はあまり有益ではなさそうです。
「お、この方には"絞扼肝"があるね」くらいですかね。
"絞扼肝"の所見が死因に繋がった経験はありません。
以上、今回は少し不思議な"絞扼肝"を取り上げました。
そもそも肝臓エコーやCT検査などの精査が行われない限り、生前にこの"絞扼肝"が発見されることは滅多にありません。
また発見されたとして、特に生活の上で気をつける必要もないです。
だからこそ、一部の肝臓外科医を除くと、馴染みがあるのは解剖を行う法医学者くらいかな?と思いご紹介してみました。
記事を興味深く感じてもらえれば幸いです。