『法医は死者の代理人 一期一会の対話と法医学者という仕事』レビュー

2022年3月27日発売 [1000円(税込)] 22世紀アート (出版社URL)

『法医は死者の代理人――一期一会の対話と法医学者という仕事』電子書籍 全142頁 (著者:石津 日出雄)

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――日本酒一合を飲んだとき、体からアルコールが消失する時間はどれ位でしょうか。
1.1時間、2.3時間、3.9時間
正解は本書「第七章 教師として」をご覧ください。
法医学は、法律上問題となる医学事項を医学の知識や技術を駆使して検査し、研究し、それによって問題点を解明して、法的な解決に寄与することを目的とする医学の一分野である――死者の声に耳を傾け、ときに人の人生をも左右する法医学の価値と魅力を、法医学上の新性別判定法の開発など独創的な研究で法医学の第一線を走り続けてきた著者が綴った、「事実は小説よりも奇なり」法医学人生ファイル。(※出版社サイトより)

[出版社からのコメント]
ミステリ―が好きな方は小説やドラマ、映画などでお馴染みの法医学ですが、死者の体からメッセージを受け取って事実を明らかにしていくそのプロセスは、刑事が聞き込みや推理で犯人を追い詰めていくのとは異なる静かな魅力があります。ぜひ本書を通じて、そんな法医学の職責と奥深い世界を味わっていただければ嬉しく思います。



40年間に亘って法医学者として働いてきた著者の自叙伝です。

本人曰く「この本は自分の"足跡"として残したいという想いがあった」とのことで、これまでの半生を綴っています。

こちらは電子書籍になりますが、この本の元になった書籍が2007年に発売されており、実物として手に入れたい方は↓下記の本を調べてみてください。


2007年9月20日発売 [1676円(税込)] ふくろう出版 (出版社URL)

『死者の声に耳を澄まして-ある法医学者の回想-』A5判 全172頁 (著者:石津 日出雄)

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死者が無言のうちに語る真実に耳を傾け事件の真相を究明し、法的な解決に寄与する。そんな法医学の世界を40年間に亘って歩いてきた著者の"足跡"を記した書。特に最近の社会情勢、時代の要請からみると法医学の重要性は従来と比べものにならないくらい重要性が増してきている。医学を志す若い医学生にも是非読んでもらいたい一冊。(※出版社サイトより)



前述のように著者の"足跡"として意味合いも含まれた自叙伝です。

これまでに著者が書いてきた複数の寄稿などをまとめているようで、ある意味で"回顧録"な印象も受けましたね。

口語調の文章の中にはユーモアな表現も見受けられ、著者の気さくな人柄もうかがい知れます。


実際に読んでみますと、石津先生が"研究・実務・教育"の3本柱をいかに見事に実践してきたのか、というのを知ることができる1冊になっております。

現在は引退されている著者ですが、その豊富な経験かか「法医学者たるものは〜」といった法医学者の在り方に触れています。


特に著者が法医学に転用し広めた技術である"Y染色体による性別判定法"を軸に、『法医学者にとってアカデミックな研究がいかに重要であるか?』という記載が印象的でした。

だからといって、"研究一辺倒"というわけでは決してなく、「法医実務に繋がる研究であるべきである」という信念の元、実務に根ざした研究および実務の重要性も同時に説いておられますね。


私のような法医学者からすれば、その研究姿勢や実務への熱意、法医学者としての存在感等々の全てにおいて著者は雲の上の存在のようなスーパーマンです。

そんな著者のように法医学を実践するのは、並の法医学者にとっては決して簡単ではありません。

しかし、自分自身の法医学に対する姿勢において、とても良い刺激を受けた1冊でした。

興味を持った法医学者を目指している人や実際に法医学に携わっている人には、是非一度読んでみてほしいですね!