法昆虫学・法医昆虫学

今回は"法昆虫学"[Forensic Entomology]について書いていきたいと思います。

とはいえ、私はそこまで詳しくないので、自験談に加え下記の本を参考にしました。


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著者名:三枝聖
タイトル:【虫から死亡推定時刻はわかるのか? 法昆虫学の話】
出版社:築地書館
URL:http://www.tsukiji-shokan.co.jp/mokuroku/ISBN978-4-8067-1563-4.html


お求めやすくページ数もそこまで厚くありませんし、一般の向けの分かりやすい本ですので、是非皆さんにも読んでみていただきたいですね。



"法昆虫学"とは、この本にはこうあります。

昆虫を証拠の一つとして、日常生活で起こりうる昆虫が関与する諸問題について調査し、解決する分野。あるいは調査・捜査に利用するために、昆虫について研究する分野。

"日常生活で起こりうる"ということで、シロアリによる住宅食害を含む害虫被害なども対象になってくるようです。


似たような言葉に"法医昆虫学"というものがありますが、こちらは

ヒト死体を蚕食している昆虫を証拠として分析し、死後経過時間を推定すること。

ということで、こちらこそが皆さんがおそらくイメージするであろう"法医学における昆虫学"なのだと思います。


死後に関係する虫としては、やはりハエ・ウジが1番最初に思い付きます。

実際にハエがやはり1番最初にご遺体に寄ってきます。

日本にもいろいろな種類がいますが、ニクバエやクロバエという種類がメインになってくるようですね。(他にもイエバエなんてのもいます)


ご遺体を目の前にして、

・どれくらいの種類の虫がいるか?→多ければそれだけ死後経過時間長い
・ハエはどの成長段階にいるか?→卵か?ウジか?サナギか?ハエか?
・ウジのサイズは最大どれくらいか?→逆算して死後経過時間を計算する

などをみます。

私の教室ではそこまで専門家がいないので、後者2つを簡単に確認するくらいですが...。



ハエの成長をみますと、

・卵の産み付け:死後1日以内
・卵の孵化(〜ウジになるまで):約1日
・ウジの成長(〜サナギになるまで):約7〜10日
・サナギ(〜ハエになるまで):約7〜10日

全体として(卵からハエになるまで)2〜3週間とされます。

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ただしこの成長は、夏は早く冬は遅くなりますのでそれを考慮しなければなりません。


ウジは徐々に大きくなりますので、そこからさらに細かく逆算ができます。

大体『ウジは1日1mmずつ成長していく』とされます。

以前読んだ本にはより30度以上の真夏日では1日2mm成長すると書いてありましたね。

なので、これらを使って「いつ卵が産み付けられたか?」を逆算するんですね。

ハエ・ウジ・サナギが混在する場合は、【卵→ウジ→サナギ→ハエ→卵】のサイクルが何度も繰り返されている可能性もありますので注意する必要があります。

あと、厳密な死後経過時間ではなく、あくまで「卵が産み付けられてからの時間」を計算しているという点も留意する必要があります。



他にこの本を読んで興味深かったのが、"積算日度(ADD)"・"積算時度"という考え方ですね。

【 [気温 × 産卵から成虫の羽化する(ハエになる)期間] は種によって一定である】

というものです。


まず実際にその種のハエを卵から育ててADDを計算します。

そこに、ご遺体から採取したウジ等を成長させてどれくらいの期間で羽化するか?を確認し、環境温度を用いて逆算するという流れですかね。

恥ずかしながら、私はこの考え方を知りませんでした...。

大変興味深いですね。



もちろんハエ以外にもご遺体に寄ってくる虫はいます。

法医学者の間で有名な"カツオブシムシ"(ミイラのような乾燥したご遺体に寄ってくる)やシデムシ、日常でも見かけるアリやゴキブリなんかもいます。

水系のご遺体では"スナホリムシモドキ"という虫が有名ですし、フナムシやウミホタルなども寄ってきます。

こちらは逆算というより、これらの虫によるご遺体の損壊を人的な損傷と間違わないことの方が重要かも知れません。



本にも書いてありましたが、こういった手法を使うのは本当にご遺体に関する情報が何もないケースなんです。

そういった場合に、根拠に乏しいから"不詳"と書くのではなく、法医昆虫学の知識で『○○頃』と推定できることの安心感は法医学者にとってとても大きいんですよね。

そしてそれは遺族にとっても同様だと思っています。

まだまだ日本ではメジャーな学問領域とは言えませんが、とても意義深い学問であることは間違いありません。